診療支援
治療

摂食障害におけるその他の精神療法
the psychoanalytic understanding and its therapeutic approach toward eating disorder
奥寺 崇
(クリニックおくでら・院長(東京))

◆摂食障害への精神療法とは

 精神分析的には,摂食障害の病理は,パーソナリティの発達のなかで最早期に起きる「取り入れ」に深く由来する.ヒトの発達にとって取り入れの始まりは,胎生期における臍帯を通じての養分の供給であり,口腔を介する羊水の飲み込みである.それは出生という環境の劇的な変化によって,肺への大気の取り込みと,消化管への母乳の取り入れへと代わる.重要なのは,その際に母性(母親,養育者)への愛着,対象希求という心的力動にも変化が起きることである.つまり,出生後は母親,乳房(乳首)といった具体的な対象が出現することで,胎内環境では母体ストレスとして感受されるにとどまっていた対象の不在を経験し,その不在の経験は不安や抑うつといった自己にとっての心的なストレスをもたらすようになる.心的ストレスの自覚は,対象への希求とともに力動を生みだす.

 その後の発達では,身体的な成長と並行して積み重ねられる愛着・対象希求(とその不在)の経験が,その人固有の内的な対象関係(人に何を求めるか,人をどのようにみるか)を形成する.心の発達は取り入れから次の段階である排泄とそのコントロールへと徐々に移行し,それに伴い,自己の感覚,内的対象関係を表現すべく言葉を獲得する.言語一般は中立的,抽象的なコミュニケーション手段であるが,「自己を表現するための言葉」の獲得は言語の獲得と同一ではない.

 取り入れの際の,①身体の感覚(口腔・消化管粘膜)と,②乳を吸うという運動(筋肉)系を介する行為,さらには③心理的な愛着(「甘え」に代表される受身的な対象希求の充足)に混乱を経験していると,思春期のように心身に大きな変化が起きる時期(子どもの関係性に大人の関係性が入り込む)のつまずきに際し,退行が起きる.退行のありようは取り入れに関して発動する3つの要素(口腔・消化管粘膜の感覚,運動系,心理的愛着)によるストレス表現の

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?