診療支援
治療

知的能力障害(知的発達症)
intellectual disability (intellectual developmental disorder)
中島洋子
(まな星クリニック・院長(岡山))

◆疾患概念

【定義・病型】

 知的発達の遅れと適応機能の障害が発達期から認められる状態で,古くは精神薄弱,その後は精神遅滞という用語が使われてきたが,近年,教育や福祉の領域では知的障害の用語が定着している.医学の領域でもDSM-5の改訂に伴い,知的能力障害intellectual disabilities(ID)と名称変更され神経発達症群のなかに位置づけられた.ICD-11で検討中の知的発達障害intellectual developmental disordersと同義であるとされている.知的障害の定義は従来と同様で,「発達期に生じ,知的機能が平均よりも有意に低く,かつ適応機能の障害が明白である」というものである.具体的には,標準化された個別的知能検査で平均より有意に低い状態にとどまっており(一般的には田中-ビネーV検査,WISC-ⅢまたはⅣ検査でIQ値が70以下),かつ概念的領域,社会的領域,実用的領域からなる適応機能において複数の領域に困難さが認められる状態が,18歳までに明らかになる,という3条件を満たす状態である.重症度の評価について,従来はIQ値を基準に決めることが多かったが,AAIDD(米国知的・発達障害協会)やDSM-5などの指針では,概念的,社会的,実用的な領域の具体的適応状況を総合的に判断して重症度を決める方法に変更された(表1)

【原因・疫学】

 発生頻度は1-2%である.女性よりも男性のほうが30%ほど知的障害と診断される例が多いが,知的レベルが低くなるにつれてその差は減少する.従来は50%程度しか原因が把握されなかったが,近年の詳細な検討では70%を超える例で原因の特定が可能となっているという.代謝疾患などを含む遺伝子の異常が40-50%,アルコールなど胎生環境への有害物質によるものが10%,脳の外傷,未熟児,低酸素など周産期の問題が10%,鉛中毒など

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