診療支援
治療

自閉スペクトラム症
autism spectrum disorder
神尾陽子
(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所・児童・思春期精神保健研究部部長)

◆疾患概念

【定義・病型】

 DSM-5では,DSM-Ⅳの広汎性発達障害pervasive developmental disorders(PDD)カテゴリーは,自閉スペクトラム症autism spectrum disorder(ASD)へと改名され,PDDの下位に位置づけられていた自閉性障害,アスペルガー障害,特定不能のPDD(PDD not otherwise specified:PDD-NOS)といった病型分類は撤廃された.DSM-ⅣでのPDDは,①対人,②コミュニケーション,③限局的・反復的・常同的パターンの3領域の障害で行動的に定義されていた(①と②と③,①と②,①と③のいずれか)のに対し,DSM-5のASDは,①社会的コミュニケーション障害,②行動,興味,活動の限局の2領域(①と②)によって定義されている.②には言語症状の一部や感覚刺激に対する過敏さ/鈍感さも含めることが明記された.この変更により,自閉症症状の連続性が正式なものとなり,病型分類に代わって重症度評価(3段階)が導入されるなど,個人の臨床ニーズを把握する際のベースとなったといえる.

【病態・病因】

 多数の遺伝子の各種変異が相互に影響し合って発症リスクを高めると考えられている.一部は,脆弱X症候群,結節性硬化症,ダウン症候群など既知の遺伝的疾患に伴う.大半のASDでは環境要因も遺伝要因との複雑な相互作用で症状発現に関与すると考えられているが,特異的な環境要因については特定されていない.臨床像は,知覚処理のレベルから,情動調整不全,そして社会的認知,注意や遂行機能などの高次認知機能不全まで広範な異常を反映する.

【疫学】

 最近の疫学研究では1%を超える有病率が報告されている.診断閾値に達しない臨床ニーズのある閾下ケースを含めるとさらに数値は高くなると想定される.ASD者の家族内に自閉症症状は集積する傾向がある.

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