診療支援
治療

虐待
child abuse
田中 哲
(東京都立小児総合医療センター・副院長)

◆疾患概念

【定義・分類】

 児童虐待とは養育者(児童虐待の防止等に関する法律の規定では保護者:親権を行う者,未成年後見人その他の者で,児童を現に看護するものとされている)による子ども(これも法的には児童:18歳に満たないもの)に対する加害行為である.法的には反復性や期間については特定されていないので,養育者の加害行動が著しく侵襲的であればただ一度の行為でも虐待であることになる.ただし,臨床的には養育者の加害行動が時をおいて反復されたときに虐待の判断が下されることが多い.

 加害行為の内容として,身体的虐待(身体的暴力などの侵襲行為)・心理的虐待(暴言・拒絶的対応などの心理的侵襲行為)・ネグレクト(養育者として求められる養育行為の回避)・性的虐待(性的な行為の強制)の4類型に分類するのが一般的である.養育する配偶者間の暴力の目撃は心理的に侵襲性が高いため,心理的虐待に加えられる.

 虐待の影響は,心身両面にわたって深く刻み込まれる.この意味では,心理的ではない虐待は存在しない.したがって心理的虐待というカテゴリーは,加害行為において心理的侵襲以外の要素がそれだけでは虐待と断定できる程度に達しない場合に限定して適用される.

 病児の親としての注目を得るために作為的に子どもに身体疾患を生起させる行為も特殊な形の身体的虐待に数えられる(代理人によるミュンヒハウゼン症候群).

【病態・病因】

 児童虐待は,病理性を含んだ特殊な家族状況である.そこにはすでにいくつかの局面で反復・循環する要素が含まれている.

 加害する養育者の側においては,暴力衝動抑制の困難,養育における負担感・孤立感・無力感,嗜癖性,対人関係における支配性といった心理特性のうちのいくつかが,養育対象である子どもに対する加害行為が,通常では考えにくいほどにエスカレート・反復する要因となっている.

 またこのような養育者の心理特性は,時

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