診療支援
治療

軽度認知障害
Mild Neurocognitive Disorder
朝田 隆
(東京医科歯科大学特任教授)

◆疾患概念

【定義・病型】

 誰しも加齢とともに,もの忘れをしやすくなる.どこまでが生理現象でどこからが認知症なのかという問いは,ずっと以前からあった.1962年にKralが提唱した「良性健忘」と「悪性健忘」という概念は,このような疑問への初期の回答であった.さてこのmild neurocognitive disorder(以下では軽度認知障害と訳す)とは,APA(米国精神医学会)によりDSM-5で新規に提唱された認知機能障害に関する病的状態を示す術語である.この新術語の源は,認知症前駆状態を意味するmild cognitive impairment(MCI)である.実は複数の研究者がMCIという用語を用いて認知機能の障害状態に異なる定義をしてきた.しかし1996年になされたPetersenの提唱によるMCI概念は時宜を得て,これが広く世界に流布するに至った.

 このようなMCIが近頃とみに注目されるのには,以下の理由がある.アルツハイマー病(AD)の根本治療薬になりうると期待される候補薬剤の多くが,早期に用いるほど効果的だといわれてきた.一方で近年の研究からは原因物質と目されるアミロイドβの蓄積は,MCIの段階ですでにプラトーに達しているとわかった.そこでMCIの最初期を,さらにはその前駆期を診断することが求められるようになったのである.以上の背景があったのでDSM-5作成に際して,従来からの認知症とは別にその前駆状態に関する新たな定義が求められたものと思われる.

 「軽度認知障害」概念のポイントは,軽度な認知機能障害は存在するが,それにより日常生活の自立が妨げられることはない状態にある.そして,原則として何らかの認知症性疾患の前駆状態だという前提がある.

【病態・病因】

 DSM-5の原著に則ってmild neurocognitive disorder(mild NCD)の邦語訳を

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