診療支援
治療

抗認知症薬による精神症状
psychiatric symptoms caused by anti-dementia drugs
船木 桂
(慶應義塾大学・精神・神経科学)
三村 將
(慶應義塾大学教授・精神・神経科学)

◆疾患概念

【定義】

 ドネペジルはわが国における唯一の適応症をもつ抗認知症薬として使用されてきたが,2011年にガランタミン,リバスチグミン,メマンチンが発売され,現在,使用できる抗認知症薬は4剤となった.ドネペジル,ガランタミン,リバスチグミンの主な作用はアセチルコリンエステラーゼ阻害作用であり,本項ではアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(以下,AChE-I薬)のなかで最も使用頻度が高く,エビデンスの多いドネペジルを中心に述べる.メマンチンは他の抗認知症薬と異なりNMDA(N-methyl-D-aspartate)受容体拮抗薬であり,AChE-I薬とは別に述べる.なお,本項で問題とするのは精神神経系の副作用であるが,AChE-I薬の副作用としてはアセチルコリン系の賦活に伴う悪心・嘔吐,下痢などの消化器系症状がよく知られており,頻度も高い.メマンチンの副作用としては,めまい,便秘,頭痛,傾眠などが挙げられるが,いずれも10%を超える頻度で生じるものはない.

【病態・病因】

 AChE-I薬による精神症状の副作用は,脳内アセチルコリン濃度が上昇することにより,刺激症状として興奮,焦燥感,攻撃性などが発現するためと考えられる.これらの精神症状の出現はAChE-I薬開始後,比較的短時間のうちが多く,増元らによれば最初に発売されたドネペジルにおいては3日-8週間程度であった.

【疫学】

 AChE-I薬(ドネペジル)の副作用としては,消化器症状,精神症状,神経症状がある.症状の頻度としては,興奮,不穏,不眠,眠気,易怒性,幻覚,攻撃性,せん妄,妄想,多動,抑うつ,無感情,徘徊,振戦,頭痛,めまいが0.1-1%未満,リビドー亢進,多弁,躁状態,錯乱,昏迷が0.1%未満とされている.精神症状の頻度は2.93%で,不眠(0.59%),易興奮性(0.56%),易刺激性(0.52%)という報告もある.

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