診療支援
治療

全身感染症に伴う精神症状
psychiatric disorders due to infectious diseases
小金丸博
(筑波大学医学医療系講師・感染症科)

◆疾患概念

【定義・病型】

 脳以外の身体疾患に随伴して起こる精神障害を症状性精神病とよび,脳炎など脳に主要疾患をもつ精神障害は器質性精神病として区別する.しかし,症状性精神病の場合にも2次的に脳の侵襲を認めるため,症状性精神病と器質性精神病を厳密に分類することは難しい.脳炎などの原因となり,精神神経症状をきたす病原微生物を表1に示す.

 症状性精神病では基礎疾患のいかんにかかわらず共通の症状が出現することが知られており,Bonhoefferの外因反応型とよばれる.外因反応型として,急性期にはせん妄,興奮,もうろう状態,幻覚症,アメンチア(軽い意識変容があり思考がまとまらず,本人もそれを自覚して困惑している状態)などが現れ,意識障害の回復過程で健忘症候群と過敏情動性衰弱状態が出現する.Marnerosらは,中枢神経感染症を除く肺炎,敗血症,感染性心内膜炎などに,見当識障害,意識障害,精神運動不穏,話に一貫性がない,不安,幻視,精神運動興奮などの精神症状を認めたと報告しているが,これらの症状はBonhoefferの提唱した急性外因反応型と一致する.

【病態・病因】

 全身感染症で精神症状が発現する機序として,発熱,代謝障害,毒素,血流障害などの関与が想定されている.敗血症関連脳症では,脳への酸素運搬の低下,炎症性サイトカインによる脳機能の低下,酸化ストレスによる脳細胞障害などで意識障害が生じる.

【疫学】

 どの感染症でも精神症状をきたしうるが,精神症状を合併する頻度の高い疾患として腸チフス,熱帯熱マラリア,発疹チフスやツツガムシ病などのリケッチア感染症が知られている.

 一般細菌感染症では,感染性心内膜炎の10-15%,重症敗血症の9-71%に精神症状を合併する.高齢者では感染早期や経過中に意識状態の変容を多く認め,高齢者における市中肺炎の12-45%に精神症状を認める.

【経過・予後】

 

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