診療支援
治療

尿毒症性脳症
uremic encephalopathy
楊 景堯
(筑波大学医学医療系解剖学・発生学教室)

◆疾患概念

【定義・病型】

 尿毒症性脳症は,尿毒症物質の蓄積,および腎不全に伴うさまざまな代謝異常により生じる中枢神経障害である.

【病態・病因】

 尿毒症性脳症の病態は,尿毒症物質の蓄積のほか,貧血,体液の電解質や酸塩基平衡の異常,低酸素血症,およびその他内分泌障害など多くの要因が複合的に関与している.症状は多彩で,精神機能障害,神経学的障害,そして運動機能障害に分類される.精神機能障害では,倦怠感,不安,短期記憶の喪失,集中力低下,感情鈍麻,認知機能の低下,幻視,興奮,せん妄,昏迷,昏睡などが認められる.神経学的障害では,てんかん性けいれん,構音障害,振戦,固定姿勢保持困難,テタニー,ミオクローヌスなどが認められる.運動機能障害では不器用,不安定,把握反射の亢進,四肢筋緊張の変化,伸張反射の非対称性などが生じる.

 尿毒症物質は,尿素,グアニジン化合物,尿酸,馬尿酸,アミノ酸,フェノール類,インドール化合物,アセトンなど多くの物質が挙げられる.このほか,副甲状腺ホルモン,プロラクチンなどのホルモンの関与も報告されている.

【疫学】

 尿毒症性脳症は,腎不全の進行に伴い発症頻度が増加する.通常糸球体濾過量が10mL/分以下になると,発症しやすいと考えられる.最近では未治療の末期腎不全患者が少ないため,尿毒症性脳症患者は減少している.

【経過・予後】

 適切に血液透析などの腎代替療法が施行されれば,症状の改善が期待できる.

◆診断のポイント

 腎不全患者の中枢神経症状を呈する疾患として,尿毒症性脳症以外に,脳血管障害,髄膜炎・脳炎,または透析施行に伴う不均等症候群などが挙げられる.尿毒症性脳症の多くは,病歴,検査所見から鑑別が可能である.意識障害で,高度の腎不全,代謝性アシドーシス,浮腫・心不全などが認められるとき,診断は確定しやすいと思われる.また,CTやMRIでは脳の特異的変化は認めず,脳

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