診療支援
治療

睡眠覚醒相後退障害
delayed sleep-wake phase disorder (DSWPD)
佐藤萌子
(睡眠総合ケアクリニック代々木)
井上雄一
(東京医科大学教授・睡眠学講座)

◆疾患概念

【定義・病型】

 睡眠覚醒相後退障害(DSWPD)は,概日リズムの位相が後退することで生じる夜間の入眠困難と朝の起床困難を主症状とする疾患であり,概日リズム睡眠障害の1つに分類される.通常,睡眠と覚醒のスケジュールが社会生活上望ましい時刻より2時間以上遅延していることが診断上の目安となる.睡眠位相はいわゆる「遅寝遅起き」に固定化され,朝の望ましい時刻に起床できないために,学業や就業などの社会生活にしばしば支障をきたす.

【病態・病因】

 生体には,約24時間のリズム(概日リズム)をもつ体内時計が備わっており,睡眠覚醒サイクル,深部体温,メラトニン分泌など多くの生体現象は概日リズムに基づき制御されている.DSWPDではこの概日リズムが内因性に変調をきたす結果,睡眠と覚醒のスケジュールが望ましい時間帯から慢性的に遅延してしまう.

 概日リズムの遺伝子研究において,就寝時刻にまつわる遺伝的関与は40-50%といわれており,DSWPDの病因においても遺伝的要因が関与しているものと考えられる.時計遺伝子であるPER3やカゼインキナーゼ1イプシロン(CK1 epsilon)などの遺伝子多型との関連も指摘されている.

【疫学】

 思春期・青年期にかけて好発し,老年期にはまれとされる.欧米の大規模試験結果では,有病率は一般人口(18-67歳)において0.13-0.17%,青年期(16-18歳)において3.3%とされる.わが国での有病率は一般人口(15-59歳)において0.13%,学生(中学生から大学生)に限ると0.48%程度と推定される.性差は現在のところ不明である.

【経過・予後】

 適切な治療を行わなければ慢性に経過することが多い.一方,加齢により睡眠の位相が前進することで症状が緩和する可能性があるが,これには10年以上を要すると考えられる.治療により望ましい睡眠位相に改善しても,夜更かし生

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