診療支援
治療

抗不安薬・睡眠薬依存
anxiolytic/hypnotic dependence
八田耕太郎
(順天堂大学医学部附属練馬病院・メンタルクリニック科長)

◆疾患概念

【定義・病型】

 抗不安薬・睡眠薬依存はほかの依存性物質と同様,重大な問題にもかかわらず使用し続け,認知,行動,生理学的症状を呈する.反復的な自己摂取様式があり,抗不安薬・睡眠薬では依存,乱用,中毒,離脱のいずれも認められる.さらに,中毒せん妄,離脱せん妄,持続性の認知機能障害や健忘性障害,精神病性障害,気分障害,不安障害,性機能不全,睡眠障害に発展することがある.なお,DSM-5では,乱用と依存は統合されているが,異論もある.

【病態・病因】

 病因は,直接的には抗不安薬・睡眠薬の長期使用であり,間接的に個人の人格的偏倚や遺伝特性が推定されている.病態の薬理学的背景には,慢性的なベンゾジアゼピン系薬剤の使用による中枢型ベンゾジアゼピン受容体のダウンレギュレーションと,それによる抑制性神経伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)の感受性低下がある.分子薬理学的レベルでは,ベンゾジアゼピン受容体の結合部位サブタイプのω1の構成要素として多く含まれているα1サブユニットと依存性との関連が議論されている.

【疫学】

 わが国の最近の一般住民における睡眠薬・精神安定薬の常用者は,それぞれ1.8%および3.0%といった調査報告があるが,このうち依存にあたるのがどの程度かは不明である.

【経過・予後】

 乱用者ではアルコール依存も含めてほかの物質依存の併存がしばしば認められ,専門的な根気強い治療が必要となる.常用量依存の場合は,丁寧な漸減スケジュールの実施である程度薬剤を整理できることは多い.すべて中止できることも少なくない.いずれも人格的偏倚や性格傾向,および加齢性の人格変化が予後に大きく関与するように感じられるが,疫学的に明確な数字は見当たらない.

◆診断のポイント

 抗不安薬・睡眠薬依存は,DSM-5ではその使用により臨床的に意味のある障害や苦痛を引き起こす「鎮静薬,睡眠薬,または抗不安

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