診療支援
治療

ヘロイン依存
heroin dependence
和田 清
(埼玉県立精神医療センター・依存症治療研究部長)

◆疾患概念

【定義・病型】

 ヘロインに対して,ICD-10ではF11.2,DSM-5では304.00に該当する場合をいう.

 ヘロインとは,モルヒネをアセチル化して作った半合成麻薬である.依存性はモルヒネ以上であり,世界的に最も厳しい統制下におかれている麻薬である.国際的にも国内的にも医療用使用も認めていない.

【病態・症状】

 ヘロインは体内ではモルヒネとして作用する.血中半減期は経口で約20分,静注で3分以内とされている.中枢神経系には抑制に働き,多幸感は性的オルガスムスに似た快感であり,腹部を中心に滲み渡るような温かさを伴う快感であるという.体内ではヒスタミンが放出されて,全身にムズムズ感を感じ,目が赤くなる.注射の場合,数分後には静寂に包まれ,傾眠状態となる.効果は4-6時間持続する.時に悪心や嘔吐がみられる.

 これを繰り返すうちに,依存・耐性が急速に形成される.退薬(離脱)を迎えると,不安感と同時に強い渇望を感じる.そのため,4時間ごとに摂取する必要性が生じ,依存・耐性はますます強固なものになっていく.これを怠ると,最終使用から8-12時間後に,流涙,あくび,発汗,鼻水が認められるようになり,その後,焦燥感,瞳孔散大,対光反射減弱,易刺激性,下痢,腹痛を呈し,皮膚は周期的に鳥肌立ち,薬物への強い渇望を示すようになる.これらの退薬症状は断薬後2-3日後に極期を迎え,7-10日で消失する.ヘロイン依存のみの場合には過量摂取がない限り,自然経過を見守るだけでも死に至ることはほとんどないとされている.また,ヘロイン依存の母親から生まれた新生児はヘロイン依存に陥っていることが多く,生後1週間は退薬症状に対する処置が必要であるという.

 受診するケースでは,過量摂取となっていることが少なくない.呼吸抑制,縮瞳,血圧低下(ないしは昏睡)が3大徴候である.新生児を含めて年少者では全身のけい

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