診療支援
治療

ニコチン依存
nicotine dependence
宮里勝政
(府の森メンタルクリニック・院長(東京))

◆疾患概念

【定義・病型】

 ニコチン摂取(喫煙)に伴う障害があり,禁煙や節煙などを意図してもできない状態をニコチン依存とよぶ.ニコチンに対する強い欲求(心理的依存)を主とする「ニコチン依存」と,ニコチン血中濃度の低下や消失に伴って起こる「ニコチン退薬(離脱)」とがある.喫煙は薬物依存の一型ではあるが,他の薬物依存症の場合と異なり急性中毒などの病態を生じないし退薬症候も限られている.しかし,喫煙と関連する疾患がありながらも禁煙できないのは,依存の強さの反映である.

【病態・病因】

 ニコチンの精神作用が依存の主要因である.喫煙すると,ニコチンは肺経路で血中へ移行し,その90%が約7秒という速さで脳へ達する.そして,脳内ニコチン受容体と結合して,ノルアドレナリン,アセチルコリン,βエンドルフィン,ドパミンの遊離を促進する.その結果,覚醒水準や学習などが影響を受ける.その変化は,穏和な調整といったレベルである.ニコチンによる多幸感は,脳内側坐核に終わる腹側被蓋野の中のドパミン作動性神経の賦活により生じる.

 反復喫煙により耐性がすみやかに形成され,これは短期の禁煙により部分的に消失し,再喫煙により容易に再形成される.長期の喫煙後では禁煙後に退薬症候が現れ,これは再喫煙によって消失する.退薬症候には,比較的長期にわたってみられるものもある.次第に禁煙が困難となっていく.

【疫学】

 成人男性の平均喫煙率は30.3%,高い年代は40歳代で38.5%である.成人女性の平均喫煙率は9.8%,高いのは40歳代の14.8%である〔日本たばこ産業,平成26(2014)年全国たばこ喫煙者率調査〕.喫煙者の67.7%がニコチン依存症に相当する(ファイザー,2012年調査).これらの数値は,喫煙環境の変動に呼応している.

【経過・予後】

 禁煙補助剤は,喫煙関連身体疾患がありながらも自らの試みでは禁煙が不可能な場合

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