診療支援
治療

疾患診断
clinical diagnosis
中込和幸
(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所・所長)

◆定義

 精神科領域における診断とは,身体疾患とは異なり,病因が明らかでないものが多く,また客観的なマーカーに乏しいため,問診に依存する部分が大きい.問診によって,診断に有用な精神医学的な情報を得るとともに,必要に応じて神経学的ならびに身体的診察や検査を行って,一定の診断基準に基づいて疾患診断を行う.現在,臨床現場では診断基準として,いわゆる従来診断(伝統的診断)と操作的診断基準(DSM,ICD)が混在しているが,それぞれ一長一短を有している.

 従来診断は,クレペリンE.Kraepelinの精神医学書がその基礎をなし,その後ブロイラーE.Bleuler,シュナイダー(K.Schneider)など,主としてドイツ学派によって発展を遂げたものである.わが国では,呉秀三が1901年にドイツからの留学より帰国してわが国の精神医学の礎を築いたため,当然ながらドイツ精神医学の伝統的診断の影響を強く受けることになる.

 一方,従来診断には評価者間信頼性の低さという短所が存在し,その欠点を克服するために,1980年に米国精神医学会(APA)より操作的診断基準であるDSM-Ⅲが発表された.わが国にも1980年代に導入され,WHOによるICD-9とともに臨床現場に徐々に浸透することとなった.DSM-Ⅲの大きな特徴として,従来診断では取り入れられていた病因に基づく診断を排除した点が挙げられる.そのため,心因性の意味を含む「神経症」という病名が消えた.操作的診断基準を用いることによって,評価者間信頼性が向上し,国際的な研究や疫学調査の信頼性が高まるという大きな進歩がもたらされる一方で,その妥当性については常に疑問が呈せられ,改訂を重ねることとなった.一方,わが国では公的に,行政や疾病統計,保険業務においては,WHOによるICDが慣例的に使用されている.

 診断は,単に病名をつけるだけのものではなく,治療

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