診療支援
治療

薬物療法の基本
introduction of pharmacotherapy for mental disorders
石郷岡純
(CNS 薬理研究所・主幹)

A.薬物療法における情報の重要性

 薬物療法とは,薬物という化学物質を使用して治療を行うことであるから,当然のことながらその薬物に関する必要最小限の知識をもつことが求められる.後述するが,治療行為とは臨床判断の連続であるので,知識はその判断に根拠を与えてくれる.根拠がない臨床判断は単なる賭けになってしまうので,常に結果を予測しながら進められるべき治療行為に知識・情報は不可欠である.しかし,1 つの薬物だけでもその情報は膨大なので,そのなかから治療を行うために重要な情報にアクセスし,選択する技量が医療者には求められるのである.

 では,薬物療法を行う際に欠かせない情報とはどのようなものであろうか.臨床試験から得られた添付文書の内容,その他の有効性や安全性に関する情報は基本的なものとして把握しておくべきである.しかし,これだけでは表層的な判断にしか役立たないので,薬物療法を立体的なものへと深化させるには,作用機序と薬物動態の概略は理解しておかねばならない.現在の精神疾患の診断は症状群に基づいて行われる操作的診断なので,薬理学を軽視すると,薬物療法が症状を標的としていると錯覚した,単なる対症療法の発想に陥る危険性が常に存在するからである.臨床判断を合理的に行うためには,アウトカム情報と薬理・動態学的情報の双方を用いて行うことが何よりも重要であり,どちらに偏っても仮説に大きく依存した医療になりやすい.

 このように,薬物療法を行う際には情報が何よりも重要であるが,それは医療者にだけではなく,受療者にとっても同様である.後述するが,薬物療法に関する情報の提供のあり方次第で治療の成否は大きく影響されるので,医療者による情報の提供技術に大きく依存するといえる.

B.臨床判断:イベントとその確率で考える

 ここまで,臨床判断のためには情報を得ることが重要であることを述べたが,適切な臨床判断の方法につ

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