診療支援
治療

気分安定薬
mood stabilizer
渡邊衡一郎
(杏林大学教授・精神神経科学)

◆定義

 気分安定薬とは,主に双極性障害の患者に対して,気分の波を抑制する,いわゆる気分安定効果を期待して用いられる薬剤の総称である.そのなかには双極性障害の治療法として開発された薬剤のみならず,抗てんかん薬や抗精神病薬として用いられていた薬剤のなかで気分安定効果が認められたものも含まれる.また,気分安定効果と一概にいっても躁状態を治療する抗躁効果,うつ状態を治療する抗うつ効果,躁病相・うつ病相の出現を予防する病相予防効果がある.

◆適応

 双極性障害が主な適応であるが,昨今ではその疾患概念が混乱していることもあり,適応は多岐にわたる.明らかな躁状態を認める双極Ⅰ型障害以外にも,軽躁状態がみられる双極Ⅱ型障害,単極性うつ病に対する抗うつ薬への増強療法,さらに鎮静効果を目的として著しい不穏を認める統合失調症,パーソナリティ障害,自閉スペクトラム症,知的障害などに対しても使用される.

◆分類

 気分安定薬として最もよく用いられるリチウムの歴史は古く,19世紀後半Garrodによって痛風治療薬として紹介され,その後の研究により鎮静効果が認められることが判明した.また,1944年Hendersonらは精神疾患の治療に効果があるという泉の水を調査し,その効果が水に含まれるリチウム量に直接比例していることを報告した.これらのことから,1949年Cadeはリチウムを躁病患者に用い,その抗躁効果を初めて報告した.また,抗てんかん薬であるカルバマゼピンも抗躁効果,病相予防効果をもつことがわが国の竹崎,花岡らにより1971年に発見された.同じく抗てんかん薬であったバルプロ酸は1966年にフランスで急性躁病に対する有効性が報告され,1990年代に米国で二重盲検比較試験が実施され躁状態の治療薬として認可された.そのほかに気分安定効果のある薬剤として昨今注目されているのはオランザピン,アリピプラゾール

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