◆小児の薬物療法の背景
子どもの心の診療では,長らく薬物治療は中心的位置を占めていなかった.その背景には,児童・青年精神医療においては,多くの疾患が心因性のものであると考えられ,歴史的には薬物療法は軽視される傾向があった.「児童青年期の精神疾患は根本的原因が解明されておらず,薬物療法は対症療法であって,望ましくない」「薬物療法を行うことで,成長してから依存・乱用の可能性がある」などがその理由であり,薬物が“科学的拘束衣”とよばれたこともあった.児童青年期の精神疾患においても,生物学的研究が進むとともに,脳内神経伝達物質の異常などが報告されるようになってきた.
A.薬物療法をどうとらえるか?
「期待された症状に効果がない」「眠気が目立って,効果がよくわからない」などの理由で,薬物療法が非難されることがある.その背景には,心因論への過信,薬物への過度の期待などがあったと思われる.一方,学校現場では,教員による誤った“精神論”,保健の授業における“副作用の過度の強調”,福祉現場における“偏った医学モデル論”などの薬物療法軽視・否定論が存在する.薬物療法の適用意義,適用限界を適切に説明し,正しい理解を求める必要がある.
B.成長・発達を考慮する
子どもは発達段階にあり,薬の作用は成人と異なる面がある.幼少時の使用については,少量からの漸増など,慎重を期すべきである.体重を考慮して,子どもでは少量の投与が通常であるが,いくつかの例外を挙げる.①クロルプロマジン薬:小児では肝臓における酵素誘導があり,代謝速度が増加する.②炭酸リチウム薬:肝臓の代謝速度の増加,腎臓の糸球体濾過の亢進.③メチルフェニデート:受容体への反応性が小児と成人で異なっている可能性がある.
C.原因(疾患)にではなく,症状を目標に使用されることがある
多くの向精神薬は使用目的,症状の種類・程度を考慮して使用される.幼少時
関連リンク
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