診療支援
治療

認知行動療法
cognitive behavior therapy(CBT)
大野 裕
(認知行動療法研修開発センター・理事長)

◆定義

 認知行動療法とは,人間の情緒が認知とよばれる心理的な情報処理のプロセスの影響を強く受けることに注目して,つらい気持ちになったときの認知に働きかけて心を楽にしたり,問題解決を手助けしたりする構造化された精神療法であり,2010(平成22)年4月に,熟練した医師が行ううつ病の認知行動療法が診療報酬の対象として収載された.さらに2016年(平成28年)4月からは不安障害とPTSDに対象が広がり,要件を満たした医療施設での医師と看護師のチームによるうつ病の認知行動療法が診療報酬の対象になった.ちなみに,認知療法は認知行動療法とほぼ同じものと考えてよい.また,行動的技法だけに特化したものを行動療法とよぶ.

 アプローチの際に重要になるのが,自動思考とよばれる,つらくなったときに頭に浮かんでいる考えである.うつ病の人は,自分自身に対して,周囲との関係に対して,将来に対して,ひどく悲観的になっている.不安障害の人は,危険を過大評価して,自分の力や周囲からの支援を過小評価している.精神疾患に苦しんでいる人は,こうした認知の偏りのために適切な行動がとれず,ますますつらくなるという悪循環に陥っているのだ.こうした悪循環が起きるのは心理的な情報処理が適切に行えていないためであるが,認知行動療法では,現実に目を向けて情報を集め,バランスよく考えられるように手助けしていく.

 治療の流れは,まず患者の性格や気質,生い立ち,発症のきっかけや症状の継続に影響している問題について詳しく尋ねて,患者の考え方の特徴(スキーマ)を明らかにして,どのような考え方が問題になっているか,それに対して認知行動療法はもちろんのこと,薬物療法や環境調整をどのように治療に取り込むかを判断する.これを「症例の概念化」とよぶが,こうした全人的な患者理解に立って面接の方針を立てることが認知行動療法では非常に重要な意味をもってい

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