診療支援
治療

社会生活技能訓練
social skills training(SST)
岩田和彦
(大阪府立精神医療センター・医務局長)

◆定義

A.社会生活技能訓練(SST)とは

 社会生活技能訓練(SST)は,認知行動療法の理論と技法をもとに自立生活に必要なスキルの習得を目的とした心理社会的治療である.

 統合失調症や双極性障害などの精神疾患をもつ人は,精神症状や認知機能障害などのために,対人関係を良好に維持するスキルやストレスに対処するスキルに障害が生じるため,生活の破綻を招き,再燃や再発に至ることも多い.それゆえ,病院中心から地域支援中心の精神医療への転換のなか,自立生活能力の改善に有用であるSSTの重要性は次第に増してきている.またストレス-脆弱性-対処力量モデルが精神疾患の説明モデルとして臨床現場に浸透するにつれ,SSTの治療的位置づけも次第に明確になってきた.

 SSTは自己主張訓練や社会学習理論などの理論や技法をもとに形作られてきた.当初は,精神疾患の結果として生じている不適応行動や生活技能の不足に焦点を当て,本人の行動が相手によい影響を及ぼすようにトレーニングを行うことを目的としていた.しかし次第に統合失調症など精神疾患の認知機能障害が注目されるようになり,SSTの治療目標は単に対人的効果の高い行動の獲得のみならず,全般的な自立生活技能の獲得に広がった.

 わが国では1988(昭和63)年にUCLAのR.P.Libermanが来日し,SSTのデモンストレーションを行ったことを受け,東京大学病院精神科デイホスピタルで同年から導入されたことを嚆矢とする.現在ではSST普及協会を中心に,精神疾患に対するSSTの研修がシステム化されており,技術の普及がはかられている.

B.社会生活技能(ソーシャルスキル)とは

 SSTで治療のターゲットとする社会生活技能(ソーシャルスキル)とは,感情や要求を他者に伝え,対人的な目的を達成することを可能にするためのスキルを指す.これは,食生活や金銭管理などを行う日常生活技能livi

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