診療支援
治療

EMDR
eye movement desensitization and reprocessing
本多正道
(本多クリニック・院長(兵庫))

◆定義

 EMDRとはeye movement desensitization and reprocessingの略語であり,日本語では「眼球運動による脱感作と再処理法」と訳されている.トラウマ記憶を想起しながら,治療者が左右の眼球運動を加えていくと同時に,トラウマ体験によって引き起こされている認知の歪み,苦痛な情動,苦痛な身体感覚などへもアプローチを加えていく.そして,単にトラウマ記憶から来る苦痛を脱感作するだけではなく,トラウマ体験がもたらした人生への歪みや目標の喪失などを乗り越え,トラウマ体験の人生における位置づけや意味づけを行い,未来に向けての対処や目標を構築していくなど再処理とよばれる幅広い治療効果が得られる.

 興味深いのは,こうした治癒のプロセスが患者のなかで自発的に進むことが多いことである.ちょうど,皮膚を縫合すると癒合するプロセスが自然に進むように,EMDRが本来患者がもっているトラウマからの治癒過程を促進しているような変化が起こっていく.

◆適応

 基本的にはトラウマ,すなわち心的外傷の病理を基盤とする症状,病態の治療に有効な心理療法である.適応疾患の代表例としては心的外傷後ストレス障害(PTSD)が挙げられるが,PTSDの診断基準を満たしていなくても,外傷体験から由来するトラウマの病理をもった症状,病態の治療に幅広く有効である.

 PTSDに代表される単回性のトラウマに有効なのはもちろんとして,幼少期の虐待など長年にわたって慢性的に繰り返されたトラウマの治療にも適応することができる.ただ,慢性的なトラウマは,より複雑な病理を抱えており,治療者の臨床的な経験,知識,治療技術により効果は左右される.このあたりは外科手術の例と同じく,難しい手術ほど術者の熟練を要することと似ている.

 適応障害,抑うつ状態,パーソナリティ障害という診断がつく患者のなかにも,トラウマの病理

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