診療支援
治療

経頭蓋磁気刺激
transcranial magnetic stimulation(TMS)
鬼頭伸輔
(国立精神・神経医療研究センター病院・精神先進医療科医長)

◆定義

 経頭蓋磁気刺激(TMS)は,非侵襲的に大脳皮質を刺激し皮質や皮質下の活動性を変化させる技術である.直径7-8cmの8の字コイルに瞬間的な電流を流すことにより,磁場が形成され,それに伴って生じる誘導電流が,主に神経細胞の軸索を刺激する.従来は,神経生理学的領域における検査方法として利用されてきたが,1990年代から,うつ病の治療に応用され,2008(平成20)年,世界で初めて,米国がTMSを薬物療法に反応しないうつ病の治療機器として認可した.修正型電気けいれん療法とは異なり,静脈麻酔や筋弛緩薬などの前処置は必要とせず,外来でもTMSを実施できる.

◆適応

 精神神経科領域では,うつ病,双極性障害,統合失調症,依存症,強迫性障害などの疾患の治療に試みられている.現在では,米国に加えて,カナダ,オーストラリア,韓国,欧州の一部で,薬物療法に反応しないうつ病の治療法として認可されている.表1にTMSが推奨される状態を示す.昏迷,精神病症状,著しい自殺念慮を伴う,もしくは,精神症状や身体症状が重篤で,迅速な改善が求められる場合には,電気けいれん療法が推奨される.TMSは刺激部位に近接する金属を発熱させるか,その位置を動かしてしまう可能性があるため,体内金属は禁忌となる(表2).妊婦は,けいれんのリスクが不明であることから,リスク・ベネフィットを十分に考慮する.TMSを行う際の問診事項を示す(表3)

◆分類

 規則的な刺激を連続して行うものをrepetitive TMS(rTMS)という.rTMSは,10-20Hzの高頻度刺激により皮質興奮性が増強し,1Hzの低頻度刺激により皮質興奮性が抑制される.うつ病患者では,左背外側前頭前野の機能低下と相対的な右半球の機能亢進が報告されてきた.したがって,うつ病の治療では,左前頭前野への高頻度刺激,あるいは,右前頭前野への低頻度刺激が選択

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