診療支援
治療

精神科救急の診療
emergency psychiatry
浅野 誠
(桜並木心療医院・院長(千葉))

◆概念

 主として急性精神病acute psychosis状態への迅速な医療の提供とされるが,精神科の救急医療の現場が対応を迫られるケースはこの定義におさまらない.そもそも,精神運動興奮状態や支離滅裂状態にあるものだけが急性精神病状態ではない.また,急性精神病状態ではないが,一時的に緊急診療が必要とされる状態もある.例えば,パニック障害における不安発作時には,流れ落ちる冷や汗や,胸部の苦悶感などを訴え,周囲を大きく巻き込むことになりがちである.小1時間程度でおさまるとしても,付き添う者に重篤感を与え,救急診療が求められることが多い.あるいは,強い分離不安を有するパーソナリティ障害の女性は自殺企図をほのめかし,時にリストカットなどを試みることで医療に救いを求める傾向があり,救急医療の現場に搬送されてくることが多い.自分の疾病について理解できず第三者が搬送せざるを得ない場合だけではなく,医療のもつ保護的側面への強い依存をにおわすケースへの対応も求められている.もう1つ精神科救急において念頭においておかねばならないことは,救急状態との判断は,疾病のもつ重篤のレベルによらず,患者の行った行為の周囲への影響度など状況依存的であることである.措置入院に関する診察も,疾病の軽重よりもすでに行った行為や予測される行為の軽重により緊急度が決められていることが一般的である.疾病としては重いとはいえなくとも,状況が緊急という取り扱いを望む場合も救急診療が求められることになる.

 したがって,精神科救急の対象をひと口で定義することは困難である.一応まとめれば,何らかの精神の疾病があって,自己または周囲の安全が失われる危険が切迫していると,本人あるいは周囲が判断したとき,電話相談も含めた迅速な対応による必要に応じた医療の提供を行うことで,起こりうる損害の最小化を試みる医療,といえよう.

◆目的

 精神科救急

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