◆定義
せん妄とは,国際疾病分類第10版(ICD-10)ではF05.コードで示される.症状性を含む器質性精神障害(F0)に属し,認知症と同じ階層に並んでいる.従来から中枢神経系に侵襲が及んだ際に起こる意識障害の特殊な型(意識変容が強く,軽い意識混濁を伴う)と考えられている.せん妄は一過性の急性精神症状群であり,意識,注意,認知,知覚が障害され,睡眠障害や精神運動活動,情動が障害されることもある.
古くからアルコール症者で有名な振戦せん妄delirium tremensは精神作用物質使用による精神および行動の障害に属し,F10.4とコードされ,せん妄の診断基準(F05.)とアルコール離脱状態の診断基準(F10.3)の両方の基準を同時に満たすことになる.アルコール急性中毒時にせん妄を伴う場合はF10.03ということになる.
◆診断基準
ICD-10の研究用診断基準diagnostic criteria for research(DCR)に基づくと臨床症状は次に示す通りである.
1)意識混濁,すなわち,周囲に対する認識の明瞭性の減退,注意を集中したり,持続させたり,あるいは移行させたりする能力の減退を伴う.
2)次の認知機能障害がともにあること.
・遠隔記憶は比較的保たれるが,即時想起および近時記憶の障害
・時間,場所または人物に関する見当識の障害
3)次の精神運動障害のうち,少なくとも1項があること.
・寡動から多動への予想し難い急激な変化
・反応時間の延長
・会話の増加あるいは減少
・驚愕反応の増強
4)次の睡眠覚醒周期障害のうち,少なくとも1項があること.
・不眠,重症例では,完全な睡眠の喪失があり,日中に眠気を伴ったり,伴わなかったりするし,または睡眠覚醒周期の逆転も起こりうる
・症状の夜間増悪
・混乱した夢および悪夢,それらは覚醒後に錯覚や幻覚として残ることもある
5)急激な発症と症状経過の日内変動
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