診療支援
治療

認知症
dementia
粟田主一
(東京都健康長寿医療センター研究所・自立促進と介護予防研究チーム・チームリーダー)

◆定義

 認知症とは,脳あるいは全身の疾患ないし障害によって,記憶,見当識,言語,判断力,問題解決能力などの認知機能が後天的に障害され,これによって社会生活,職業生活,家庭生活などを営むための生活機能が著しく障害された状態をいう.ここには,発達の障害に起因する精神遅滞,意識障害に起因するせん妄,機能性精神疾患であるうつ病や統合失調症は含まれない.

 米国精神医学会の「精神疾患の診断・統計マニュアル」(DSM-5)では,「神経認知障害群」(Neurocognitive Disorders)というカテゴリーが設けられている.そこでは,複雑性注意,実行機能,学習と記憶,言語,知覚-運動,社会的認知の6つの神経認知領域が定義され,それぞれの領域に関する障害の有無と程度によって,認知症(Major Neurocognitive Disorder)と軽度認知障害(Mild Neurocognitive Disorder)が定義されている.

◆臨床像の全体

 認知症の臨床像の全体は,上記のような認知機能障害と生活機能障害を核にして,それを取り巻くさまざまな精神医学的問題(精神症状や行動障害),身体医学的問題(身体症状や身体疾患),社会的問題によって構成されている.

 認知症にみられる多様な精神症状および行動障害は,1996(平成8)年に開催された国際老年精神医学会(IPA)のコンセンサス会議において,「認知症の行動・心理症状behavioral and psychological symptoms of dementia(BPSD)」とよぶことが提唱されている.BPSDは,行動症状(通常は患者を観察することによって明らかにされる)と心理症状(通常は患者や親族との面談によって明らかにされる)に分類される.IPAのコンセンサス会議では,①厄介で対処が難しい症状として,妄想,幻覚,抑うつ,不眠,不安,身

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