診療支援
治療

パーソナリティ障害に対する精神科救急医療の実践
psychiatric emergency to personality disorder
白波瀬丈一郎
(慶應義塾大学特任准教授・精神・神経科学)

◆パーソナリティ障害,特に境界性パーソナリティ障害をもつ患者との非生産的な交流

 救急医療における,パーソナリティ障害,特に境界性パーソナリティ障害をもつ患者(BPD患者)との交流では,彼らのもつ精神病理が先鋭化した形で表現されやすい.結果,その交流は非生産的なものになりやすい.このことを十分認識したうえで,その交流を少しでも生産的で医療的なものにするための工夫を行うことが重要である.

 過量服薬したあとに自ら救急車をよんで病院を訪れ寝入ってしまったBPD患者や,ICUで目覚めたあと「あぁ,死ねなかったんだ」と悪びれる様子もなく語るBPD患者を目の前にすると,多くの医療従事者は空しさや怒りを覚える.さらに,医療従事者が体験するこうした陰性感情は,救急外来によばれた精神科当直医や翌朝ICUによばれた精神科医に八つ当たり的にぶつけられる.「薬を処方したのは,先生じゃないけど精神科医でしょ.だったら,胃洗浄は精神科医がやるべきなんじゃないの」とか「困るんだよね.こういう患者でベッドを塞がれると,本当に対応しなくてはいけない患者を受け入れられなくなるんだよ.何とかしてくれないかな」といった具合である.

 手首自傷のために夜中に救急外来を訪れたBPD患者は,主治医がいかに自分のことを理解してくれていないかを訴え続ける.そして,精神科当直医のちょっとしたしぐさや一言で,患者は突然怒鳴り出す.「あんた,私のことを厄介者だって思っているんでしょ」「主治医への不満なら,主治医に直接言ってくれって思っているんでしょ」などなどである.確かにその通りである.しかし,うっかり患者の言葉に乗って「その通りです.手首を切って救急外来に来たって,あなたの困っていることは何も解決しないと思います」などと答えようものなら,火に油を注ぐことになる.「そんなこと,あんたに言われなくったって百も承知しているわよ.百も承知

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