診療支援
治療

自殺企図への精神科的対応
psychiatric approaches to suicide attempts
太刀川弘和
(筑波大学医学医療系准教授・精神医学)

◆定義

 近年全国的に自殺予防への関心が高まっており,自殺企図への精神科的対応は以前にも増して求められている.通常,自殺企図が起こった場合,身体科救急と精神科救急が同時に連携して治療にあたることが最も望ましい.しかしわが国では身体科救急に精神科医が常勤配置されている医療機関は少ない.そこで本項では,精神科救急にまず自殺企図者が受診に至った場合の精神科的対応の骨子について述べる.なお,ここで自殺企図とは,自殺したいという考え(自殺念慮)に基づき,自殺するための具体的行動を行ったものを指す.

◆患者への基本的態度

 自殺企図者は背景に精神疾患はもとより,さまざまな複数の人生の課題を抱え,追い詰められて自殺未遂に至り,救急受診する.そこで初めて患者に出会った際には,基本的に受容と共感,傾聴の態度を示す.これによって精神的危機に際して最初に必要な情緒的サポートを患者に与えることができる.頻回に自傷行為を行っている患者や行為を否認するような患者には,その言動に治療者が陰性逆転移を起こし,叱咤激励したくなることもある.なかなか共感できない場合にはゆっくりと患者の訴えを繰り返すだけでもよい.患者がどう感じるかが重要である.続いて中立的な立場で支援を表明し,情報収集のうえ,安全確保のための具体的な提案・説明を行う.早期に良好な治療関係(ラポール)を樹立し,患者に安心感を与えることが,正確な情報収集につながり,再企図の抑止効果を発揮する.

◆対応の手順

(図1)

A.自殺危機の情報収集

 患者との間にラポールを醸成しつつ,迅速に情報収集を行う.①第1に身体状況を確認し,身体合併症を見逃さないようにする.次に,②自殺企図事実に関する情報,③自殺企図の経緯と病歴情報,④自殺企図者の社会的背景情報を聴取する.特に自殺企図事実は,時間,場所,動機,手段詳細を順次尋ねていく.これらは身体合併症治療にはもちろんのこ

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