診療支援
治療

退院促進・地域移行支援
measures to prompt discharge from mental hospital to community
坂田増弘
(国立精神・神経医療研究センター病院・精神科医長)

◆背景となる状況

 1960年代以降,欧米の多くの国々が精神科病床の削減,精神科医療の脱施設化を目指してきたなかで,わが国においては,平成2(1990)年頃まで増床を続けてきたという歴史がある.平成16(2004)年に「入院医療中心から地域生活中心へ」という国の政策が明確に掲げられてから10年が経過したが,平成25(2013)年の人口1,000人当たりの精神科病床数は約2.67と,ピーク時から10%弱の減少にとどまり,精神病床の平均在院日数は284.7日と,国際的にみて,やはり非常に長いといわざるを得ない水準にある.こういったデータについて,「高齢の長期入院患者が平均在院日数を押し上げている」「欧米の脱施設化は,医療費削減のための,あるいは思想に基づく政治主導の結果であって,患者を支える地域や患者自身に負担を強いている部分が少なくない」と論じ,「必ずしも現在のわが国の精神科医療の質を反映するものではない」とする向きもある.しかしながら,平成19(2007)年の厚生労働省研究班の調査データによれば,入院期間が1年未満の患者は,全入院患者の8.7%にすぎず,逆に20年以上にわたる患者は13.4%もいた一方で,「受け入れ条件が整えば退院可能」とされた患者は全入院患者の33.6%,「居住先や支援が整えば,現在または近い将来退院可能」とされた患者は51.2%を占めていた.このような「潜在的退院可能患者」が実際に退院して,地域で生活できるようにするための基盤を整備することは,福祉行政の役割であって精神科医療の質とは無関係であるとしてよいとは思えない.医療をサービスととらえたとき,質のよいサービスの条件として最も重要なものは,利用者つまり患者の満足度である.そして,患者のニーズは単なる症状の軽減だけではなく,リカバリー(障害によりもたらされた破局的な状況を乗り越えて,自らの可能性を広げつつ

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