診療支援
治療

日常生活の改善を目指した認知行動療法
cognitive behavior therapy (CBT) for improvement of daily life
菊池安希子
(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所・司法精神医学研究部専門医療・社会復帰研究室長)

◆統合失調症の認知行動療法の目的

 1990年代以降,統合失調症圏の患者を対象として実施されてきた「精神病の認知行動療法CBT for Psychosis(CBTp)」の効果研究においては,幻覚・妄想などの精神病症状の改善を主たるアウトカムにすることが通常であった.そのような無作為割付対照試験が重ねられた結果,英国などの統合失調症治療ガイドラインにおいてCBTpは,標準的に提供されるべき心理的介入法として推奨されるまでの位置づけを得ることができた.しかしながら,近年,CBTpの目的,そして効果検証時の主要アウトカムは,症状変化におくべきではないという考え方が広がってきている.

 このような認識変化の背景としては,まず,統合失調症をもつ人々の抱える最大の問題が精神病体験であるとは限らないことが挙げられる.精神病症状よりも社会的排除やスティグマ,情緒的問題,対人関係の苦痛をより強く感じている者が少なくないことを示す調査結果が複数存在する.そのため,症状の軽減は必ずしも生活の質の向上やリカバリーに十分ではないことの理解が広がってきたのである.

 さらに,そもそも認知行動モデルによれば,状況をどのように解釈(認知)するかが,その後の感情や行動(結果)を決める.精神病体験については,いくつかの認知行動モデルが提唱されているが,心理的苦痛をもたらすのは,精神病体験という状況をどのように解釈するかであって,体験そのものではないことを主張している点では共通している.そこで,心理的苦痛の軽減のためには,症状自体ではなく,症状に対する認知もしくは行動に介入すべきことがモデルから導き出される.症状の改善は苦痛軽減の結果,二次的にもたらされる可能性のある状態であって,第一義的な目的ではない.例えば,幻聴の頻度や内容が変わらないとしても,それによる苦痛や,影響された行動が改善すれば,介入の目的は達成された

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