診療支援
治療

精神科リハビリテーションの展望
overview on psychiatric rehabilitation
池淵恵美
(帝京大学教授・精神神経科学)

A.精神科リハビリテーションとは

1.3つの次元の機能障害

 WHOでは,International Classification of Functioning, Disability and Health分類(ICF分類)によって,1)臓器や形態レベルでの機能,2)日常生活活動,3)社会生活という3つの次元の障碍disabilityを分けて記載している(図1).これは疾患分類であるICDと対をなすものである.

 例えば身体障害では,3つの次元は以下のようになる.

1)脳血管の梗塞による半身まひ

2)歩行,食事などの遂行障害

3)就労や主婦としての役割への影響

 精神障害では,

1)注意維持機能などの認知機能障害

2)表情や状況をよみとったりすることがうまくできない,自分の考えをうまく伝えられないなどのコミュニケーション障害

3)職場で不安になりやすく,たびたび転職

 ここで重要なのは,3つの次元は機能障害から社会的参加の障害に至る直線的な因果関係ではなく,相互の影響が想定されていることである.就労の機会が制限されることで,結果的に抑うつ症状や日常生活の障害がもたらされるなど,逆方向の影響もあるということである.また心身の疾患による機能への影響だけではなく,個体や環境要因も重視されているし,妊娠などによる機能への影響なども想定されている.このなかで,1)は狭義の医療の対象となり,2)と3)がリハビリテーションの対象となる.精神障害(科)リハビリテーションは,統合失調症などの精神障害があって,2)および3)に影響がある場合を対象としている.

2.精神障害リハビリテーションの基本的な考え方

 リハビリテーションでは,原因が十分解明されておらず生活への影響が大きな病態が対象となることが多いことや,現状で機能回復に十分な効果が得られるとは限らないことなどから,歴史的に単に医学的な機能回復にとどまらず,障害

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