診療支援
治療

成人の自閉スペクトラム症
autism spectrum disorder in adults
太田晴久
(昭和大学発達障害医療研究所・講師)
加藤進昌
(昭和大学発達障害医療研究所・所長)

◆概念

 自閉スペクトラム症(ASD)は社会性の障害や常同性を主症状とする神経発達障害である.ASDは母親の愛情不足など子育てが原因とされていた時代もあったが,現在は先天的な脳機能の問題に由来すると考えられている.症状は幼少期より存在していることが原則であり,成人になり発達障害を発症するということはない.いわゆる「成人のASD」には大きく分けて2つのパターンがある.1つは幼少時からすでにASDの診断を受けており,そのまま成人となったケースである.もう1つは幼少時よりASDの特徴はみられていたものの障害に気がつかれず,成人になって初めて診断に至ったケースである.前者に関しては知的障害や言葉の遅れを伴う古典的な自閉症が多く,以前より医療や福祉につながっていた.後者については知的障害を伴わず,これまで見過ごされやすかったが,最近になりその存在に気がつかれるようになったものである.

 その要因の1つとしてASDに関する情報の広まりがある.最近では家庭のみならず大学や会社においてもマスメディアなどを通じて成人期のASDに関する知識が広がりつつあるため,ASDに伴う問題点に気がつかれやすくなり,周囲に促されて受診に至るケースが増えている.また,診断する側の変化も成人のASD数の増加の要因に挙げられる.これまでは成人を対象とする精神医療において,発達障害を診断するという観点が欠けていたため,鑑別診断の候補にASDが挙がることもなかった.近年では診療をする側の意識の変化や診断概念の広がりにより,他の精神疾患にて受診している方の背景にあるASDなどの発達障害が見つけられやすくなってきている.雇用の流動性の増加などにより,環境の変化への対応や自己アピール能力が以前よりも求められる社会的背景も,ASDが不適応を起こし医療につながる要因になっている可能性もある.また,何らかの解明されていない要因によっ

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