診療支援
治療

成人の注意欠如・多動症
attention deficit/hyperactivity disorder (ADHD) in adults
栗林理人
(弘前大学大学院附属子どものこころの発達研究センター)

◆疾患概念

【定義】

 米国精神医学会のDSM-5に従えば,注意欠如・多動症(ADHD)は,発達水準に不相応な不注意と多動性・衝動性の一方もしくは両方が学校や家庭など複数の場面で認められる病態であり,生来的な脳機能障害が発現の主要因であるものを中核とする症候群として「神経発達症群」に分類され,発達障害の一種である.

【疫学】

 成人期ADHDの有病率については,DSM-5にはSimonらのメタ解析の結果である2.5%のデータが掲載されている.わが国では,中村らによる有病率の推定値で男性1.67%,女性1.53%,全体で1.65%との報告がある.

【経過・予後】

 ADHDは子どものときに生じる障害であるが,大人になっても一部症状が継続し,それを成人期のADHDと称し,そのなかには社会生活や日常生活を送るうえで支障をきたす人が少なくないことがわかってきた.幼稚園や小学校で受診するADHDは,多くは混合型で多動-衝動性が目立ち,男子に多い.また,成人になって初めて受診する場合は,男女差があまり目立たず,不注意症状が多く,素行障害や反社会的問題が少ない.また,ADHDの子どもが成人した際に出会う可能性の高い精神疾患として,物質乱用,不安障害,気分障害,反社会的パーソナリティ障害,境界性パーソナリティ障害が挙げられる.それらの併存疾患により背景にあるADHDが覆い隠され,注意深く観察しないと認めにくい場合が少なくない.

◆診断のポイント

 DSM-5,ICD-10などの診断基準の項目を具体例を挙げながら注意深く問診していくことが必要である.その際,ADHDの症状は1日を通した複数の場面で確認する必要があることから,本人や親だけでなく,職場関係者からの情報なども総合して評価する必要がある.なお,診察場面では患者が新奇な場面で普段の行動をある程度コントロールできるため,過度に診察場面の症候にとらわれる

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?