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自殺予防
suicide prevention
高橋祥友
(筑波大学医学医療系教授・災害・地域精神医学)

◆自殺の現状と自殺予防の基本概念

 2015年のわが国の自殺者総数は24,025人であり,世界のなかでも高自殺率国の一角を占めている〔「自傷,自殺」()参照〕.わが国の自殺の深刻な現状を直視して,2006年6月に自殺対策基本法が成立し,自殺を社会全体の問題としてとらえて,幅広い取り組みが必要であることが宣言された.

 まず自殺予防を理解するためのいくつかの基本概念から解説しよう.

A.事前予防,危機対応,事後対応

 自殺予防は,事前予防prevention,危機対応intervention,事後対応postventionに大別される.

・事前予防:現時点で直ちに危険が迫っているわけではないが,その原因などを事前に取り除いて,自殺が起きるのを予防する.自殺予防教育なども広い意味での事前予防に含まれる.

・危機対応:今まさに起こりつつある危機的状況に働きかけて,自殺を防ぐ.

・事後対応:不幸にして自殺が生じてしまった場合に,遺された人々に及ぼす影響を可能な限り少なくするためのケアを指す.

B.医学モデルと地域モデル

 自殺予防は,医学モデルmedical modelと地域モデルcommunity modelが互いに緊密な関連を保ちながら,長期的な視野に立って実施しなければならない.

・医学モデル:自殺の背景にしばしば存在している精神障害に気づかず,適切な治療を受けることなく,自ら命を絶っている人が圧倒的に多い.そこで,自殺に直結しかねない精神障害を早期の段階で発見し,適切な治療に導入し,自殺を予防する.

・地域モデル:今,直ちに精神的な問題を抱えているわけではない,健康な人を対象に問題解決能力や援助希求的態度を高めるような教育を実施していく.

C.ライフサイクルと自殺

 一般に自殺といっても,子ども,若年成人,壮年期の人,高齢者では抱える問題にはそれぞれ特有のものがある.各ライフサイクルに特有な問題に

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