診療支援
治療

職場のメンタルへルス
mental health in workplace
田中克俊
(北里大学大学院教授・産業精神保健学)

◆定義と背景

 職域メンタルヘルス活動に従事する専門家には,事業者がはたすべき安全配慮義務を専門的な立場からサポートする役割が求められている.安全配慮義務とは,業務と関連した疾病の発症・増悪を予防するための予見義務(労働者の状況から疾病の発生・増悪を予見すべき義務)と結果回避義務(予見の可能性があることを前提に結果を回避する義務)のことを指す.つまり,安全配慮義務の趣旨目的は本質的に予防的であり,職場のメンタルヘルス活動では,自然と治療よりも予防が優先されることになる.予防には,診断だけでなく,労働者を取り巻く社会的要因についてのきちんとしたアセスメントが重要となる.予防的介入の成否は,アセスメントの正確さにかかっているといえるだろう.介入を行う際には,労働者だけでなく,管理者や人事労務担当者,他の産業保健スタッフとの連携が不可欠である.

◆労働者の精神不調のアセスメント

 まずは,労働者が抱えている健康上の問題が専門的な医療を要するものか否かの判断を行う.最近では,精神科医は安易に診断をつけて薬物治療を始めるとの批判が多いが,いまだ職場には,治療可能な症状に耐えながら働いている労働者がいることを忘れてはいけない.単なる疲労やストレス反応,未成熟なパーソナリティ,わがまま,職場不適応などと考えられているケースのなかには,統合失調症や双極性障害,アルコール使用障害,重篤な睡眠障害,強迫性障害,発達障害,神経疾患,甲状腺疾患などの疾患が見落とされている場合も少なくない.これらの疾患の診断と治療については他項に譲るが,職場では症状だけでなく背景にあるさまざまな問題を探り出すための時間が確保されやすく,入社時からの縦断的で客観的な情報を得られるという大きな利点がある.もともとの心理的特性や業務遂行能力,精神症状の経過や社会的機能の変化,健康診断結果や実際の職場環境についての情報が得られる

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