診療支援
治療

小児医療と倫理
ethics of pediatric practice
多田羅竜平
(大阪市立総合医療センター緩和医療科・部長)

 医療を行うにあたり合理性をもって判断するために守るべき規範(ルール)が,医療倫理である.ビーチャムとチルドレスは医療において遵守されるべき倫理原則として,自律の尊重(respect for autonomy),善行(beneficence),無危害(non-maleficence),正義(justice,公平性)の4つの原則を提示した.

A.自律尊重の原則

 患者が自分自身のことについて判断,選択したことを尊重することを求める原則である.一般に,医師は判断能力を有する患者の同意なく医療行為を行うことは認められていない.一方,判断能力を有する未成年者の自律を尊重するべきなのかという「自律尊重の原則」と「善行の原則」の対立について,わが国ではコンセンサスを得られていないのが現状である(例:親の同意だけで,逆に子どもの同意だけで,医師は医療行為を行ってもよいのか?).なお,世界医師会(WMA)は成熟した未成年患者の扱いについて,患者本人による意思決定を尊重するよう提言している(ヘルスケアに対する子どもの権利に関するWMAオタワ宣言).

B.善行/無危害の原則

 「善行の原則」とは他者に利益を与えることを求める原則であり,「無危害の原則」とは他者に危害を与えないことを求める原則である.これらの原則は一見,当たり前のことのように思われるが,現実の医療において2つの原則を両立させることは難しい.そもそも医療行為は本質的に人体に対する善行と危害の可能性を併せもつものである(それゆえに医師のみに認められている).

 そのため患者に利益を与えるためには,ある程度の有害性あるいはリスクを許容せざるをえない.したがって医療における判断は,常に利益と危害のバランスを考量することが求められる.とりわけ生命維持治療の差し控え・中止の判断は,子どもの生命に直結する問題であり慎重な意思決定が求められる.そこで許容

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