分娩損傷とは,分娩時に胎児・新生児に生じた身体機能や構造の障害で,その頻度は単胎頭位経腟分娩,帝王切開では約2%である.未熟児,骨盤位分娩,児頭骨盤不均衡,吸引・鉗子分娩などで多い.
A.出血
1.頭血腫
摩擦や吸引などによる頭蓋骨骨膜剥離が生じた骨膜下血腫で,骨縫合を超えない.黄疸の増強はあるが2~3か月で自然治癒する(穿刺は禁忌).
2.帽状腱膜下出血
頭皮静脈と硬膜静脈洞との穿通血管の破綻による.大量出血によるショックや播種性血管内凝固症候群(DIC)になることもある.早期からの輸血療法などの適切な治療が必要で,死亡率は12~17%ともいわれている.
3.頭蓋内出血
早産児では脳室内出血が多いが,成熟児ではくも膜下出血や硬膜下出血のほうが多い.
4.内臓損傷
肝被膜下出血,脾破裂,副腎出血などがある.前二者は大出血,後者は副腎不全によるショックが起こりうる.
B.神経損傷
1.腕神経麻痺
a.上位型〔Erb(エルブ)麻痺〕 C5~C6の神経根障害で上腕挙上不能となる.3~4か月で自然回復する例が多い.
b.下位型〔Klumpke(クルンプケ)麻痺〕 C7~Th1の神経根障害で,手関節や手指屈筋群の麻痺で把握反射が消失する.多くは全型麻痺で予後不良が多い.
2.顔面神経麻痺
産道での圧迫および鉗子分娩にてみられる.啼泣時に麻痺側の口角が動かない.2~3週で改善することが多く経過観察でよいが,閉眼不能時は角膜保護が必要である.
3.脊髄損傷
分娩時の牽引・回旋・過伸展にて起こる.発症頻度は上位頸髄損傷は8万分娩に1人である.受傷後早期からメチルプレドニゾロン30mg/kgをボーラス投与後,5.4mg/kg/時の持続投与が推奨される.
C.骨折
1.鎖骨骨折
経腟分娩の1~2%にみられる.Moro(モロー)反射の左右差や触診で気づかれる.
2.長管骨骨折
患部の腫脹や動きの左右差で気づかれる.ギプス