Ⅰ.漏斗胸
●病態
・前胸部の中心と上腹部の境界がロート状に陥凹している状態をよぶ.
・おおよそ1,000人に1人程度の割合で発生し,男子に多い.
・肋骨は前方で軟骨(肋軟骨)となり前胸部の中心にある胸骨に連続し,この胸骨が陥凹する.
・肋軟骨の変形や過長に原因があるといわれている.
・見過ごされるほど軽度の変形から,胸壁が背骨に付くぐらい高度なものまで,陥凹の程度はさまざまである.左右対称な場合と,右側に陥凹が強い非対称性の場合がある.
・症状は,美容上の問題を除くと普通はほとんどない.むしろ精神的な問題のほうが重要になることが多い.外見上の問題で引け目を感じたり,いじめの原因になったりする可能性がある.
・変形の割には症状に乏しく,小児期には無症状で経過する場合がほとんどだが,高度な変形では圧迫による心肺機能異常などを合併することがある.
・成人例では,易疲労性や運動時呼吸困難などを訴える場合がある.心臓が圧迫され,軸偏位などの心電図異常や動悸,ひどい場合は心臓弁膜症をきたすことがある.
・診断は外見から判断できる.胸部X線写真や胸部CT検査を行うことにより,陥凹の程度を数値で表現し客観的に評価することが可能である.
・軽度の場合は,扁桃腺の摘出や水泳などの運動で胸筋を鍛えることにより改善する可能性がある.
・機能上問題がない場合でも変形に起因する精神発育への影響はことのほか大きく,内向的で活動性の乏しい性格形成に至る場合には手術的加療が望まれる.
●治療方針
A.Nuss法
手術は米国で開発されたNuss(ナス)法が近年では多く行われている.陥凹している胸骨の裏側に金属製のバーを入れ,裏側から前方へ胸骨を押し出して矯正し,3年程度胸骨を適切な位置で固定し,バーを抜去する方法である.
この方法では,両側胸部の3cm程度の皮膚切開(前胸部に小切開を追加する場合がある)より弯曲した金属のバーを心臓・肺