●病態
・家では普通にしゃべるのに,幼稚園や保育所や学校などではしゃべることができない状態である.人・場所・状況によって症状の有無や程度に差がある.DSM-5では不安症群に分類されている.
・行動抑制的気質(遺伝的な気質)を背景に環境の負荷が加わり発症する.発症年齢は入園・入学後が多く,幼児期発症が約80%である.
・症状の程度は場面緘黙質問票(SMQ-R)で評価する.
・ことばの問題,自閉スペクトラム症,軽度知的障害などの併存が多い.
・治癒まで長期間を要し,青年期以降の遷延例もある.治癒後も不安症やうつ病などの精神科的合併症に苦しむ例もある.
●治療方針
行動療法の有用性が高いが,日本では行動療法を行える医療機関がきわめて乏しいので,行動療法的なかかわり方を家庭や園や学校で行う.家族や保育者や教師に適切なかかわり方の説明と情報提供が大切である(かんもくネットのウェブサイトなど).症状が長引くほど改善しにくいので,早期治療が大切である.
A.望ましいかかわり方
a)スモールステップでできることを褒めて自信を育くむ.
b)話すことを強制せずジェスチャー,指サイン,カードなどの意思表示を教える.
c)不安の軽減とリラックスできる配慮を行う.
d)日々の活動や行事はどうしたいかを子どもに尋ね,いくつかの選択肢を示したうえで子どものペースで活動に参加できるようにする.
e)目立たず困らない発表形式を用いる.例えば,班の代表が読む,声が出ないときは5秒待って次に行くなど前もって打ち合わせをしておく.
f)エクスポージャー法(曝露法)など,行動療法を参考にした取り組みを行う.
B.薬物療法
選択性緘黙への使用は限定的である.併存症である不安症やうつ状態の治療に,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)(ルボックス,デプロメール,ジェイゾロフト,レクサプロ)を用いる場合がある.子どもと保護者に効果