診療支援
治療

動揺病
motion sickness
堤 剛
(東京医科歯科大学耳鼻咽喉科学・教授)

●病態

・ヒトは主に3種類の感覚入力(視覚,前庭覚,体性感覚)を利用して体平衡を維持している.動揺病とは,この感覚入力間の乖離やそれによる認知座標系・空間識の不安定化が視床下部や大脳辺縁系を介して自律神経反射(吐き気,嘔吐,頭痛やめまい,唾液分泌亢進,血圧上昇や低下など)を引き起こす状態を指す.

・内耳疾患などで前庭覚入力に障害がある場合,特にほかの感覚入力との間の乖離や空間認知の精度低下が起こりやすく,動揺病が発症しやすくなるとされる.

・車酔いは,加速・減速・カーブなどの加速度変化を予測しにくい同乗者が本やスマートフォンなどを見ていると,前庭覚や体性感覚への加速度の入力と視覚入力との間の乖離が大きくなり発症する.車内の悪臭や不快な温度・湿度,さらに精神的な不安なども発症要因となる.

・船の中では常に低周波数の揺れが体性感覚より入力されているが,これは視覚では感受されにくい.また波の高い状況下では揺れも大きくなり,体性感覚と前庭覚に激しい入力が入り,視覚入力との間の乖離が長時間負荷される.これにより船酔いが発症する.

・その他,近年では地震酔いや映像(VR)酔い,高層マンション酔い,宇宙酔いなどが問題となっている.

●治療方針

 動揺病の発症や重症度に影響を与える因子は,生来の感受性の高さ,感覚入力の大きさや,各感覚入力間の乖離の程度に加え,それによる姿勢の崩れ(動作エラー)の大きさや,さらにそのときの精神状態(不安など)や体調など,多岐にわたる.対処法として,これらの状態を避けることや,逆に感覚入力負荷によるトレーニングを行うことなどが考えられる.

 a)動揺病を起こしやすい乗り物に乗る際は,睡眠不足,空腹,満腹などをあらかじめ避ける.

 b)動揺病を起こしやすい乗り物内では悪臭,高温などを避ける.

 c)窮屈な衣服を避ける.

 d)会話,音楽などで気を紛らわす.

 e)酔い止め(抗ヒスタミン

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