診療支援
治療

歯,顎の外傷
traumatic dental injuries
齊藤正人
(北海道医療大学小児歯科学・教授)

●病態

・歯の外傷は,歩き始めて間もない1~2歳になる乳幼児の乳歯と,小学生低学年である7~9歳の永久歯に多く,受傷部位はともに上顎前歯部の頻度が高い.

・歯の外傷は増加傾向にあり,もともと乳幼児は円滑な運動が十分発達していないため,転倒・転落により顔面を強打しやすいが,フローリングなどの硬い床や転落の要因となるソファなどの普及に起因していると推測されている.学童は自転車の乗り始めやスポーツを通して活動的になる反面,運動能力が未熟であるため歯の外傷が多くみられる.

・小児の運動能力は改善傾向にあるが,ピークにあった30年前に比べはるかに低く,さらに「運動する小児」と「運動しない小児」の二極化傾向が指摘されている.スポーツなどで運動能力が大きく異なる小児や,身長差が大きい小児が混在する場合に生じる外傷は,顎骨骨折のような重篤な外傷に至る例もある.

・病態としては,乳歯では脱臼が多く,永久歯では年齢が高くなるに従い破折の頻度が高くなる.

●治療方針

 歯・顎の外傷の予防は非常に困難であるため,外傷に対し適切に対処することにより,その後の影響を最小限に留めることが最重要である.歯の外傷受傷時は患児にとっては突然遭遇した予期しえない状況にあるため,医療面接の際には患児および保護者(同伴者)を落ち着かせることから始める.その後,いつ,どこで,どの部位,どのような状況,来院までの経過,意識の消失の有無そして既往歴などを聴取する.特に意識の消失や吐き気・嘔吐を認めた場合は,まず直ちに医科に受診することを勧める.

 歯の外傷は,脱臼性損傷と破折性損傷に分類される.

A.脱臼性損傷

 振盪,亜脱臼(不完全脱臼),側方脱臼,挺出,陥入,そして脱落(完全脱臼)に分類され,治療法は乳歯,幼若永久歯ともにほぼ同じであるが,陥入と脱落は乳歯と永久歯で対応が異なる場合がある.

 a)振盪:歯の変位・動揺を認めない歯周組織へ

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