小児における口腔疾患の代表は齲蝕である.歯周疾患は歯肉炎が主体である.小児において齲蝕の減少傾向が報告されているが,有病児の齲蝕罹患に関する調査では,健常児に比較して齲蝕が多い傾向にあることが報告されている.出生時あるいは早期から小児疾患への対応に追われ,十分な口腔清掃などの齲蝕予防に保護者が対応できないこと,薬の服用時を含めスポーツ飲料などの摂取が多いことなど,一般的な齲蝕予防の実施が困難な場合が多い.
歯科治療は,局所麻酔,歯の切削,修復操作などの治療侵襲が避けられないこと,さらに治療中の開口維持が必要であることなど,小児においてストレスの多い不快なものである.小児歯科では対象患児の精神発達レベルや協力度を考慮して対応している.一般的に3歳以上の健常児であれば,通常の歯科治療を受容することができ,治療による侵襲への特別な配慮は必要としない.しかし有病児においては,病院や治療に対する恐怖心が強く協力度も十分でない症例や,治療侵襲によって体調が悪くなる症例も少なくない.さらに口腔内に特有な異常や病変を生じる小児疾患も存在する.
有病児においては齲蝕予防がきわめて重要であり,保護者へ根気よく啓蒙ならびに実践していくことが必要である.
A.歯科治療時に留意すべき小児疾患
1.先天性心疾患
チアノーゼ性心疾患では,号泣などにより無酸素発作が生じる.行動調整法の応用とモニター管理で対応する.感染性心内膜炎罹患のリスクについては,観血処置の際の抗菌薬の術前投与で対応する.
2.血液凝固異常症
血友病が代表で,観血処置に対する止血方法の検討が必要である.抜歯処置においては第Ⅷないしは第Ⅸ因子の補充を行い,吸収性の止血剤や縫合,サージカルパックさらに止血用スプリントなどを準備し使用する.
3.白血病
種類やその病状により対応が異なる.歯科治療ができない状態もあるため,小児科との密な対診が必要で