診療支援
治療

歯性病巣感染
dental focal infection
朝田芳信
(鶴見大学小児歯科学・教授)

●病態

A.定義

・口腔領域における限局した慢性感染巣(一次病変)に起因して,一次病変自体は臨床的にほとんど症状を示さないか,あるいは周期的に軽度の症状を示す程度であるが,口腔から離れた組織や臓器において二次的な感染が生じることを歯性病巣感染という.

B.発症機序

・口腔内の慢性感染巣が二次疾患を引き起こす機序としては,大きく5つに分けることができる.

 a)口腔内細菌の直接的な管内性の移行で他部位へ影響を及ぼす(管内性移行の代表例である誤嚥性肺炎では,肺から細菌を培養して同定すると歯周病原性細菌や口腔内の常在菌が検出される)

 b)細菌が血管内に侵入し,遠隔臓器で増殖する

 c)細菌性の為害物質〔例えばリポ多糖(LPS)〕が血中に入り,遠隔臓器に悪影響を及ぼす

 d)細菌のLPSに対する抗体産生の誘導とⅢ型アレルギー(免疫複合型アレルギー)を起こす

 e)T歯性病巣感染部で産生されたサイトカインやケミカルメディエーターが血中に移行し,他臓器に影響を及ぼす

C.一次病変

・歯科領域としては,重度の齲蝕,慢性の感染歯髄(歯髄炎),根尖性歯周炎,歯根肉芽腫,歯根嚢胞,歯肉炎,慢性辺縁性歯周炎があげられる.

・軽度の齲蝕は歯髄組織の炎症を惹起しないため,一次病変として成立しないと考えられるが,象牙質には象牙細管が存在し,細菌による刺激が細管を通じて歯髄内に達し慢性炎症を引き起こすため,一次病変となりうるので注意が必要である.

D.二次病変

・感染性心内膜炎などの循環器疾患,糸球体腎炎やネフローゼ症候群などの腎疾患,関節リウマチを含むリウマチ性疾患,アレルギー性皮膚疾患があげられる.歯性病巣感染の場合,一次病変を根治することで二次病変が軽快することが多い.

●治療方針

 二次病変の治療において,症状が改善しない場合や改善しても再発を繰り返す場合は,歯性病巣感染を考慮し,一次病変を同定する必要がある.特に小児の場合

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