診療支援
治療

子どもの看取り
戸谷 剛
(子ども在宅クリニックあおぞら診療所墨田・院長(東京))

A.生前より始まる悲嘆に寄り添う

 小児の緩和は病児が治癒しえない疾病を有した時点から始まる.「life-threatening condition」と表現されるその状態は段階的に進行する.疾病は臓器の機能障害を通して多面的な生活困難と苦痛症状を生じさせる.また児と家族を特別な悲嘆に直面させ,心理社会的な孤立の引き金となりうる.死とその過程とは「生きた実体験(lived experience)」であり,児と家族は適切な緩和的な資源の支援のもと「いかに生きるか」を見つめ,暮らしの特別な願いを実現するプロセスを通して,予期悲嘆(anticipatory grief)の危機を乗り越えるきっかけを生む.したがって,子どものEOL(end of life care)は家族(時に周囲の人のつながりを含む)という心理コンテクストのときに綻びかけた「生きるという希望のものがたりの紡ぎなおし」の側面を有する.

 医療福祉社会資源はこの特別な悲嘆に,実利的支援をもって寄り添いながら,児と家族で紡ぐストーリーの黒子となって相補的にかかわるイメージをもつ.EOLを含め,小児の緩和ニーズは,上記の特別な悲嘆へのケアニーズと期待される発育(や自己実現)への支援ニーズの2つが相まって求められる.

B.病状の進行による児と家族の悲嘆の危機をチームで支える

 病状の進行はADLの低下や解決しない苦痛症状の増大を通して,児と家族に特別な悲嘆の危機をもたらしうる.予期悲嘆を生じうる告知(bad news telling)の侵襲性に十分配慮した告知技法(SPIKES,SHAREなど)を取り入れた家族(時に児)への説明,受容の過程で生じうる児と家族からの操作性・依存性・コンフリクト・孤立をもたらす心の葛藤へのケアリングに留意しながら,「十分なしなやかさ(vulnerable enough)」をもって多資源で協働してかかわる

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