A.概要
子どもの性被害は,①子どもよりも優位な立場にある人がその優位性に乗じて子どもに性的加害を行う性虐待(sexual abuse)と,②同級生などのように子どもより優位な立場にいるとは必ずしもいえない人や見知らぬ人からの性暴力(sexual assault),の2種類に大きく分類される.
特に性虐待は家族などの身近な人が加害者であることが多いため,長期にわたって繰り返されやすい.
B.性虐待順応症候群
1983年,Dr.Roland Summitは性虐待を受けた子どもたちが下記a)~e)の症状を呈しやすいことを発見し,性虐待順応症候群を提唱した.
a)秘密にする(secrecy)
b)無力感を感じる(helplessness)
c)罠にはまり,逃げられない状態に順応する(entrapment and accommodation)
d)打ち明けが遅れ,説得力のない開示をする(delayed,unconvincing disclosure)
e)打ち明けた被害を撤回する(retraction)
ただし性虐待を受けていても同症候群の症状を呈さない子どももいれば,性虐待以外の「子ども時代の逆境的体験」(ACE:adverse childhood experiences)によって性虐待順応症候群とよく似た症状を呈する子どももいる.性虐待順応症候群は病名として適切ではないが,性虐待を受けた子どもたちが示す反応を知るうえで有用である.
C.一般診療における性虐待・性暴力被害児との出逢い
性虐待・性暴力を受けた子どもが,一般外来を受診することがある.治療の第一歩は,子どもの性虐待・性暴力を見逃さずに発見してあげることである.下記a)~f)のような子どもを診たら性被害を疑い,家庭内性虐待なら児童相談所に通告,家庭外性虐待や性暴力なら警察に通報して,児童相談所・警察・検察・医療者・司法面接者