診療支援
治療

代理ミュンヒハウゼン症候群
Münchausen syndrome by proxy(MSBP)
奥山眞紀子
(子どもの虐待防止センター・理事)

●病態

・虚偽であるがもっともらしい劇的な病歴を訴えて多数の病院を受診したり,必要のない医学的精査,手術,治療を繰り返す患者を1951年Asherがミュンヒハウゼン(ほら吹き男爵)症候群と名づけた.1977年Medowが,養育者の虚偽によって子どもに病的な状態が作り出され,不必要な検査や治療が繰り返される状態を代理ミュンヒハウゼン症候群と名づけ,「虐待の奥地」と表現した.

・子どもが呈する症状は無呼吸,けいれん,出血(血尿,吐血),中枢神経機能障害,下痢,などが多く多彩である.持続的や反復する病状で,医学的に説明が困難であることが少なくない.一見健康そうな子どもの状態と,訴えられる危機的な症状や重篤な検査結果を伴う病歴の不一致がみられることで疑われることもある.何もないのにけいれんを起こしたといって受診する模倣の形や,下剤を投与して難治性下痢を作り出すなどの捏造の形があるが,両方を伴うことも少なくない.死亡率も9~22%とかなり高く,危険な状態と考えたほうがよい.

・日本での10施設からの21例の報告では,精神症状を訴える場合は子どもの年齢が高く死亡例は少ないものの,身体症状の場合は発症年齢も低く死亡率も高い状態であった.

・養育者は困難な病気を抱えた子どもの親を演じる.医療関係者を取り込むことが多く,それが症状のエスカレートや行為の隠蔽につながる危険がある.海外では養育者に医療関係者が多いとされるが,上記の国内報告では医療関係者はいなかった.

●治療方針

 隠しカメラで親の行為を特定するなどの方法もあるが,倫理的問題も懸念され,不確実であることが多い.親子分離による症状の軽快を確認することが最も重要である.児童相談所に通告し,医療機関に一時保護委託を行ってもらい,症状の改善を確認する.親子分離自体が治療となるが,親によって植えつけられた病人役割への対処として心理的治療を行う.養育者が

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