胃と腸 60巻 9号 (2025年9月発行)

今月の主題 胃底腺分化を伴う胃腫瘍の最新知見

電子版ISSN:1882-1219
印刷版ISSN:0536-2180
印刷版発行年月:2025年9月
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今月の主題 胃底腺分化を伴う胃腫瘍の最新知見 序説

胃底腺分化を伴う胃腫瘍の最新知見

60巻9号 , 2025年9月 , pp.1100-1101
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はじめに

 胃底腺分化を伴う胃腫瘍は,以前には軽度の異型を伴う主細胞の過形成として“chief cell proliferation of the gastric mucosa mimicking early gastric cancer”1)や“chief cell hyperplasia with structural and nuclear atypia”2)という名称で,胃底腺ポリープの一亜型として報告されていた.そのような病変について,Tsukamotoら3)は2007年に“gastric adenocarcinoma with chief cell differentiation”として1例報告を行った.その後2010年にUeyamaとYaoら4)は10例の症例をまとめて,通常型高分化管状腺癌との比較を含めた臨床病理学的検討を行い,新しい疾患概念として“gastric adenocarcinoma of fundic gland type(chief cell predominant type)”という名称を提唱した.

主題
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要旨●近年,胃底腺型腺癌のみならず胃底腺型腺癌成分を伴うが腺窩上皮への分化も伴う胃底腺粘膜型腺癌もみられるようになり,それ以外でも胃底腺への分化を伴うさまざまな腫瘍が発見されるようになった.それらの代表的病変として胃底腺型胃癌(胃底腺型腺癌,胃底腺粘膜型腺癌)と胃型腺腫の病理組織学的特徴について解説し,臨床的取り扱い方針および今後の課題について考察した.さらに,これらと鑑別が必要な腫瘍および腫瘍様病変(神経内分泌腫瘍,胃底腺ポリープおよびPPI関連ポリープとその腫瘍化病変,ラズベリー様腺窩上皮型腫瘍,自己免疫性胃炎の萎縮粘膜,再生性変化を示す胃底腺粘膜)の病理組織学的特徴について解説した.

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要旨●胃底腺型腺癌(GA-FG)は比較的まれな腫瘍と考えられていたが,その疾患概念が提唱されてから約15年が経過した現在では,多くの医療機関で診断および治療が行われるようになっている.本疾患は男性に多く認められ,Helicobacter pylori感染の有無にかかわらず発症しうる点が特徴であり,主としてU領域に発生する.内視鏡診断に際しては,胃底腺領域の白色調病変の発見にとどまらず,腫瘍の存在する層構造,集合細静脈の走行,ならびに腺開口部の形態変化を正確に評価することが極めて重要である.本疾患は微小病変であっても粘膜下層(SM)への浸潤を認めることがあるが,大きな腫瘍径や高い隆起を除き,SM浸潤を示唆する決定的な内視鏡所見はない.今後は,SM浸潤の可能性を予測する新たな内視鏡的指標の確立が望まれる.

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要旨●胃底腺粘膜型腺癌(gastric adenocarcinoma of fundic-gland mucosa type ; GA-FGM)のタイプ別の内視鏡的特徴について報告した.胃底腺型胃癌は病理組織学的に胃底腺型腺癌と胃底腺粘膜型腺癌に分類され,胃底腺粘膜型腺癌は,粘膜構造の組織構築によりUeyama-Yao分類,①Type 1(組織構築保持/非腫瘍性上皮の被覆なし),②Type 2(組織構築崩壊/非腫瘍性上皮の被覆なし),③Type 3(組織構築崩壊/非腫瘍性上皮の被覆あり),の3つのタイプに亜分類される.今回,自施設で胃底腺粘膜型腺癌と診断された29例を対象に,各タイプ別の内視鏡的特徴について検討した.胃底腺粘膜型腺癌はさまざまな色調と形態を示すが,自施設では発赤調・隆起性病変の頻度が高く,全体としては既報の胃底腺型胃癌の内視鏡的特徴を示す頻度が低かった.Type 1とType 2では,既報の胃底腺型胃癌の内視鏡的特徴を示す頻度に差があり,表層の腺窩上皮型腫瘍の組織学的異型度の違いにより境界の有無,拡大内視鏡診断に違いがあることが判明した.Type 3は,胃底腺型腺癌と類似する病変が多いと予想されるが,まれな特殊タイプも存在し各症例で特徴が異なる可能性がある.また,H. pylori感染状況により,既報の胃底腺型胃癌の内視鏡的特徴を示す頻度,肉眼型,拡大内視鏡診断に差があることが判明した.以上より,H. pylori感染状況と色調・肉眼型を加味したうえで,内視鏡所見から表層の腫瘍成分の有無とその異型度,表層と上皮下腫瘍との関係性(上皮下腫瘍様変化)を推測することが,胃底腺型腺癌との鑑別も含めた胃底腺粘膜型腺癌の内視鏡診断につながると考えられた.

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要旨●胃底腺型腺癌は,胃底腺細胞への分化を示す胃型腫瘍で,粘膜固有層深部から膨張性に発育し,粘膜下層に浸潤して上皮下腫瘍(SEL)としての隆起を呈する.このうち,腺窩上皮細胞への分化を伴う腫瘍は胃底腺粘膜型腺癌と呼ばれ,内視鏡的には隆起型が主体だが,平坦型や陥凹型もみられる.両者とも上皮下に主座を置くため,生検による正確な診断が難しく,内視鏡所見の理解が診断の鍵となる.鑑別疾患としては,胃底腺型腺癌では上皮下に主座を置く腫瘍が,胃底腺粘膜型腺癌では表層に腺窩上皮型成分を伴う隆起型腫瘍が挙げられ,平坦・陥凹型では通常型の管状腺癌との鑑別が重要となる.

胃底腺型腺癌の予後と治療方針

60巻9号 , 2025年9月 , pp.1161-1166
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要旨●胃底腺型腺癌は,胃底腺細胞への分化を伴う低悪性度の腫瘍である.多くは小径で粘膜内または粘膜下層に限局し,脈管侵襲やリンパ節転移は極めてまれであることから,内視鏡切除術のよい適応である.術後の予後は良好で,局所再発はほとんどないが,一部の症例で同時性または異時性に胃底腺型腺癌の発生がみられる点に注意が必要である.一方,胃底腺粘膜型腺癌は腺窩上皮への分化を伴い,より悪性度が高いとされるが,長期予後の解明は今後の課題である.

ノート
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要旨●近年の遺伝子変異解析の進捗に伴い,いくつかの定型的な病理組織像を示す胃型腫瘍は特徴的な遺伝子変異を有することが明らかになってきた.ラズベリー様腺窩上皮型腺腫・腺癌では,KLF4c.A1322C変異がほぼ全例にみられる一方,平坦型腺窩上皮型腺腫では,APCおよびKRAS変異を有する.これら2つの腫瘍はいずれも腺窩上皮分化を主体とする腫瘍であるが,分子生物学的な観点からは全く異なる腫瘍と考えられる.幽門腺腺腫は,典型的にはAPC,KRAS,GNASの3つの変異を有している.これらの組織型特異的な遺伝子変異の存在は,それぞれの疾患単位の独立性を示すとともに,関連病変との発生上の関係性を考えるうえでも有用な所見である.

主題症例
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要旨●患者は80歳代,女性.近医で心窩部痛の精査目的で施行されたEGDにて胃隆起性病変を指摘され,精査加療目的で当科紹介となった.当科のEGDにより胃底腺領域優位の萎縮性変化があり,胃体中部前壁には5mm程度の粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)様隆起が認められた.血液検査所見では,抗壁細胞抗体陰性,抗内因子抗体陽性,高ガストリン血症,抗H. pylori抗体陰性であり,除菌治療の既往はなく,自己免疫性胃炎(autoimmune gastritis ; AIG)と診断された.SMT様隆起はESDが行われ,病理組織学的検査結果は胃底線型腺癌であった.胃底腺型腺癌は免疫組織化学的にpepsinogen IやH/K-ATPaseが陽性になるとされるが,本病変は背景粘膜のAIGを模倣するようにH/K-ATPaseが陰性であった.また,chromogranin Aが陽性であり内分泌細胞への分化を伴っていた.これらの免疫組織化学的所見はAIGに発生する胃底腺型腺癌として特異的なものと考えられた.さらに本症例は追加の血液検査により橋本病を合併した自己免疫性多内分泌腺症候群3B型と診断され,甲状腺ホルモンの内服が開始された.

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要旨●患者は60歳代,男性.当科で施行したEGDで,胃体上部に30mmの隆起性病変を認めた(主病変).また,胃穹窿部〜胃体部にかけて,褪色調の平坦な粘膜病変と発赤調の上皮下腫瘤様の小隆起が多発していた(同時性多発病変).これらの多発病変から生検を施行した結果,組織学的には,胃底腺型腺癌もしくは胃底腺粘膜型腺癌であった.診断的治療目的に主病変のESDを施行したところ,組織学的には胃底腺粘膜型腺癌であった.また,主病変の周囲には胃底腺粘膜型腺癌(2病変)と胃底腺型腺癌(30病変以上)が認められた.胃内に無数の胃底腺型胃癌(胃底腺型腺癌,胃底腺粘膜型腺癌)が多発していることから,胃全摘術も考慮されたが,患者が外科治療を希望しなかったため,6か月ごとの内視鏡検査とCTでの経過観察の方針とした.治療後約8年が経過しているが,個々の病変に明らかな増大は認められず,また,全身CTスキャンで他臓器転移の所見は認められなかった.以上のような胃内に無数の胃底腺型胃癌を有する症例の報告はなく,報告した.

今月の症例
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患者

 20歳代,女性.

主訴

 心窩部痛,吐下血.

現病歴

 心窩部痛と吐下血を認め,当科を受診した.

早期胃癌研究会

2024年9月の例会から

60巻9号 , 2025年9月 , pp.1191-1194
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 2024年9月の早期胃癌研究会は,2024年9月18日(水)にオンラインにて開催された.司会は竹内(長岡赤十字病院消化器内科)と山崎(岐阜県総合医療センター消化器内科),病理は藤原(九州医療センター臨床検査科病理・病理診断科)が担当した.また,セッションの間に,2023年「胃と腸」賞の表彰式が執り行われた.

目次

60巻9号 , 2025年9月 , pp.1095

欧文目次

60巻9号 , 2025年9月 , pp.1096

書評

60巻9号 , 2025年9月 , pp.1195

次号予告

60巻9号 , 2025年9月 , pp.1196-1197

編集後記

60巻9号 , 2025年9月 , pp.1199
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 上山らにより提唱された胃底腺型腺癌という新たな組織型の概念から15年が経過し,多くの症例が蓄積されるとともに,複雑かつ多彩な分化を示す病変にも遭遇するようになってきた.その結果,分類や診断において混乱を生じる場面も少なくない.こうした状況の中で,胃底腺への分化を伴う腫瘍の臨床像および病理組織学的特徴を整理し,内視鏡診断への応用,臨床的意義のある病理診断・分類の構築,さらには治療方針の確立を目的として,本特集を企画した.

 序説は上堂が担当し,胃底腺型胃癌の提唱以来,胃底腺分化を伴う胃腫瘍に関しては,臨床病理学的なバリエーションについてさまざまな報告がなされてきたこと,発癌機序の研究は当然として,その多彩な分化像に対する新たな分類や意義の解明も求められており,依然として多くの課題が残されていることを述べている.

奥付

60巻9号 , 2025年9月 , pp.1200