緒言
現在,整形外科手術の対象は高齢患者が中心となり,心・脳血管疾患の既往により抗血栓薬を内服している症例も増加しています.一方で,周術期管理においては,出血性合併症を防ぐための“休薬”と,脳梗塞や心筋梗塞といった血栓性イベントを回避するための“継続”との間で,われわれは常に慎重な判断を迫られます.
実臨床では,「出血を懸念して休薬したが,術前に脳梗塞を発症した」「継続を選択したが,硬膜外血腫で再手術となった」といった事例も決して稀ではありません.患者背景や併存疾患,術式の侵襲度,麻酔法やドレーン管理など多くの要素を総合的に評価し,最適な方針を導き出す力が今まさに求められています.
整形外科手術周術期における抗血栓薬使用の基礎的知識
整形外科では抗血栓薬を新規に開始する機会は多くない一方,心房細動や脳梗塞後の内服患者に対し,手術・神経根ブロック時の休薬や再開の判断が常に求められる.虚血イベント抑制と出血増加の綱引きの中で,安全な周術期使用には作用機序・薬物動態・副作用といった基礎的理解が不可欠である.本稿では抗血小板薬・抗凝固薬の要点を整理し,臨床判断の拠り所となる基本を解説する.
抗血栓薬中止しての整形外科手術 その功罪
整形外科手術における抗血栓薬の周術期管理は,出血性合併症と血栓性合併症の双方を考慮したバランスが重要である.抗血栓薬の中止は,出血リスクの低減や硬膜外血腫などの重篤な合併症を防ぐ一方で,静脈血栓塞栓症や心筋梗塞,脳梗塞など血栓性イベントの増加を招く可能性がある.患者背景,抗血栓薬の種類,手術の侵襲度を踏まえた個別のリスク評価と,他科との連携を含む包括的な周術期管理が望ましい.
抗血栓薬継続しての整形外科手術 その功罪
整形外科手術における抗血栓薬の継続投与は,出血性合併症と血栓塞栓症の両リスクを踏まえた適切な判断が求められる.近年,抗血栓薬継続による手術において出血リスクの増加は限定的であり,安全に施行可能とする報告が増加している.一方で,術式や患者背景に応じた慎重な対応は依然として重要である.本稿では,最新の知見と臨床データをもとに,抗血栓薬継続の功罪と今後の課題・展望を概説する.
抗血栓薬服用者に対する四肢外傷手術の実際と周術期管理
高齢化に伴い,抗血栓薬を服用する四肢外傷患者が増加しており,観血的整復固定術(ORIF)を要する症例においては,術前の休薬判断と周術期管理が重要となる.抗血栓薬の休薬は出血リスクを軽減する一方で,血栓イベントの増加を招くため,薬剤の種類,手術侵襲,患者背景を総合的に評価する必要がある.四肢外傷手術では,現時点で明確なガイドラインがなく,周術期管理に苦慮する症例も多い.本稿では,最新の国内外ガイドラインを踏まえ,出血・血栓リスクの評価法,薬剤ごとの管理,麻酔選択や再開時期,多職種連携の重要性について概説し,整形外科領域における安全な周術期対応を考察する.
抗血栓薬服用者に対する脊椎脊髄手術
超高齢社会において抗血栓薬服用患者に対する脊椎脊髄手術を行う機会は増加している.脊椎外科医の約70%以上は,脊椎待機手術前に抗血栓薬を中止しているが,休薬中の血栓性合併症(心筋梗塞,脳梗塞・塞栓症など)は生命にもかかわる重篤な合併症となる.周術期抗血栓薬使用患者に対する脊椎待機手術において術前に考慮すべき点は多く,抗血栓薬の種類や併存疾患,術式,手術高位・椎間数,想定出血量,それを踏まえた術前休薬・継続の判断を脊椎外科医単独で行うことは難しく,麻酔科や各診療科とのリスク評価を行うことが重要である.
抗血栓薬と脳神経外科手術
超高齢社会を迎え予防的使用を含めた抗血栓療法を行っている患者は増加している.脳梗塞,冠動脈疾患,静脈血栓症などの治療後の抗血栓療法施行中の症例の周術期管理では,おのおのの症例で血栓リスクを適切に評価し,術式に応じた出血リスクを加味して対応することが奨励される.しかしながら相反する2つの合併症両方をなくす方法はない.また脳神経外科手術では頭蓋内出血,外傷といった緊急手術を要し,出血リスクが高度な場面が多く,手術対象,手術術式も多岐に及ぶ.現時点での明確なコンセンサスはないが,脊椎脊髄手術同様に出血性合併症を生じると大きな不利益を生じる頭蓋内手術に対する抗血栓薬の使用法について考察する.
抗血栓薬服用者に対する神経ブロック
抗血栓薬服用者に対する神経ブロックでは,出血合併症の重篤性および不可逆性から薬剤休薬の是非が判断されているのが現状であるが,これら薬剤を休薬せずに施行した場合に出血合併症リスクが上昇するか否かを検討したエビデンスレベルの高い研究は存在しない.出血が圧迫止血困難あるいは致死的,不可逆的状態に至る可能性がある中枢での腕神経叢ブロックや脊椎周囲の神経ブロック時には,アスピリン以外の抗血小板薬および抗凝固薬の休薬が必要である.
—抗血栓薬休薬期間の目安①—術前いつから休薬すべきか?
抗血栓療法中の患者に対する整形外科手術時には,血栓塞栓症と出血のリスクを総合的に評価し,休薬期間を個別に設定する必要がある.判断には①血栓リスク〔CHADS2スコアやvenous thromboembolism(VTE)既往など〕,②使用薬剤〔ワルファリン,direct oral anticoagulant(DOAC),抗血小板薬〕の特性,③手術の出血リスクの3要素を考慮する.特にdual antiplatelet therapy(DAPT)中やdrug eluting stent(DES)留置例では,休薬がステント血栓症のリスクを高めるため慎重な対応が求められる.ガイドラインに基づいた多職種での管理が重要である.
—抗血栓薬休薬期間の目安②—術後いつから再開すべきか?
高齢化に伴い,虚血性心疾患や心房細動などで抗血栓薬を内服する患者が増加し,非心臓手術を受ける機会も増えている.そのため,周術期の有害転帰を最小限に抑えるには,抗血栓薬の適切な管理が極めて重要である.本稿では,特に冠動脈ステント留置後および心房細動患者を中心に,術後の抗血栓薬再開の適切なタイミングやヘパリン置換の是非について,最新のガイドラインとエビデンスに基づき概説する.
体幹筋強化と筋力測定を両立させた体幹トレーニング器具RECORE(リコア)
はじめに
腰痛症は患者数が極めて多く,日常生活や社会活動を制限する代表的な愁訴である1).日本は超高齢社会を迎えており,運動器診療の最重要課題であるロコモティブシンドローム(以下,ロコモ)の原因として,加齢に伴う慢性腰痛や関連疾患が挙げられる2).慢性腰痛に対する運動療法の有効性は高いエビデンスで示され,ガイドラインでも強く推奨されている3).しかし,その根拠となる研究の対象には高齢者がほとんど含まれていない4).つまり,推奨されている慢性腰痛に対する運動の手法は,「高齢者にも同様に有効なのか?」「高齢者でも継続的に実施できる方法なのか?」といった疑問が残る.実臨床や学会の議論でも,同様の問題意識を共有されている先生方も少なくないだろう.
慢性腰痛,ロコモの運動療法においては,対象者の多くが高齢のフレイル患者であることを念頭に入れる必要がある.われわれは後述するように40歳以上の慢性腰痛患者を対象に運動療法の前向き比較対照試験を実施したが,研究への参加を希望して対象となった患者の平均年齢は75歳であった5).つまり,この年齢層が主なターゲットとなる運動療法には以下の条件が求められる;
①骨粗鬆症性椎体骨折(osteoporotic vertebral fracture:OVF)や腰椎多椎間固定術後の患者など,幅広い症例に適応可能であること
②無理なく継続でき,アドヒアランスが高いこと
③痛みの改善に加えて運動機能の向上も得られること
Haydenら6)のシステマティックレビューでは,慢性腰痛に対する運動療法の中で筋力強化が最も機能改善に有効である(つまりロコモの改善効果が高い)ことが報告されている.
変形性膝関節症患者への保存療法介入による臨床スコア健常正常値の達成状況と初回介入時からの達成予測について
背景:変形性膝関節症(OA)における保存療法の目標値として健常正常値を用いている.本研究では保存療法による達成率とその予後予測について明らかにすることを目的とした.対象と方法:OA患者118名とし,初回・1カ月・3カ月時に理学療法評価と質問紙調査を実施し,健常正常値とその予測因子を検討した.結果:健常正常値の達成率は1カ月時21名(19.2%),3カ月時27名(30.0%)であった.健常正常値に影響する因子と予後予測に用いるノモグラムと重回帰式が算出された.まとめ:保存療法による達成率が明らかになり,初回からの予後予測が可能となった.
肩関節拘縮に対する非観血的授動術後の可動域の改善パターンは拘縮の重症度に依存する
目的:頚椎神経根ブロック下肩関節授動術(MUC)を受けた患者の可動域の改善パターンを拘縮の重症度別に明らかにすることである.対象と方法:凍結肩に対してMUCを受けた患者106例を対象とした.拘縮の重症度によりsevere群,moderate群,mild群に分類し,可動域の改善パターンは下垂外旋優位型(ER型),結帯優位型(IR型),同時型(SP型)に分類した.結果:改善パターンは,severe群(ER型/IR型/SP型)では(40%/10%/50%),moderate群では(24%/28%/48%),mild群では(5%/70%/25%)であった.結論:肩関節拘縮に対する非観血的授動術後の可動域の改善パターンは拘縮の重症度に依存する.
上腕骨骨幹部骨折の治療経過における合併症の検討
上腕骨骨幹部骨折の手術治療例における合併症について調査した.2012〜2023年の手術例92例を対象に,骨折部位,AO分類,手術方法,合併症(橈骨神経障害,手術部位感染,偽関節)を調査.橈骨神経障害は20例(21.7%)に発生し,1次性は全例回復,2次性は8例中7例が回復.偽関節は2例(2.2%),手術部位深部感染は3例(3.3%)に発生.1次性橈骨神経麻痺には高エネルギー外傷などのリスク因子があれば神経の確認を推奨,2次性橈骨神経完全麻痺で術中に神経を確認していない場合は再手術での確認を推奨する.
手に発生した動脈瘤6例の治療経験
目的:手に発生した動脈瘤の治療成績と臨床的特徴を調査した.対象:手術治療を行った6例で誘因,症状,術前MRI所見,病理診断などを調べた.結果:5例で腫瘤発生前に慢性的に手に刺激が加わっていた.すべて有痛性で4例で拍動を触知した.全例で摘出後に血行再建を行った.術前MRIでT1強調像で低信号,T2強調像で低信号と高信号の混在しているものは真性動脈瘤だった.一方でT1強調像で低信号,T2強調像で高信号のものは仮性動脈瘤だった.まとめ:MRI所見は術前診断の一助となり,治療方針を決める際に有用な所見となり得る.
重度四肢外傷 ケースで学ぶ実践ハンドブック—現場で役立つマスターガイド
本書は,JSETS(Japan Severe Extremity Trauma Symposium;日本重度四肢外傷シンポジウム)で長年にわたり提示・議論されてきた知見に対して,次世代の医師たちが臨床現場から真摯に応答した「手紙」である.現在の外傷治療のスタンダードが,数多くの試行錯誤や,時に悔いの残る不遇な転帰を経て築かれてきたことを,改めて思い起こさせてくれる.
取り上げられている症例には,過去の経験を否定することなく,それに甘んじることもせず,未来をより良いものにしたいという意志がにじむ.限られた資源や時間の中で,いかにして患者にとって最善の選択を届けるかという,臨床医としての葛藤と挑戦が誠実に描かれている.
対話と承認のケア 増補版—ナラティヴが生み出す世界
◆増補版までの5年間
本書は,2020年2月に刊行された同タイトルの書籍に補遺と索引を加えた増補版である.本書が論じるのは,「対話や承認それ自体がケアになるという可能性」だ.そのために,医療やヘルスケアの現場で行われてきた「ナラティブ・アプローチ」(個人によって語られる物語=ナラティブを用いたさまざまなケア実践)を,解釈・調停・介入の三つに分類しながら幅広く検討する.そのためにまず,文学や言語学の物語論,哲学の存在論を経由し,「ナラティブとは何か」を考える.そして,それが本書の「骨」であると語る.その頑強さにうっとりと引きこまれる.
評者も刊行当初に本書を手に取り,刺激を受けたひとりだ.特に終章にある「私たちは〈いずれ死んでしまう存在〉どうしであるがゆえに,適切な聞き手になれる」という洞察には目を開かされ,評者の専門分野である教育や文芸について考えるときにも要所でそれと引き比べてきた,手放しがたい一冊である.
誰も教えてくれなかった足の外科[Web動画付]—NIKIメソッドによる治療戦略
日本足の外科学会理事長である仁木久照先生が,ライフワークとしている足の外科の集大成とも言える書籍を出版されました.一人の足の外科医として足の疾患と真摯に向き合い,難しい病態に対する治療法を,聖マリアンナ医科大整形外科・足の外科班の仲間と一緒に,まさに紡ぎ出したと表現するのがふさわしい,ご苦労の跡が手にとるようにわかる感動的な内容になっています.
仁木先生は物事を非常に緻密に考えられ,構想されたことを形にする実行力と決断力を兼ね備えた素晴らしいリーダーであります.日本で初めての足疾患に特化した患者立脚方評価法であるSAFE-Qを,仁木先生は日本足の外科学会の当該委員会の委員長として一から作り上げ,まとめあげられました.私も委員の一人として参加し,つぶさにその作成過程を拝見しました.何もないところから質問項目を選定し,統計学的な手法を駆使して下位尺度を順序立てて決められて,さまざまなことを積み上げられてできた最終案をさらに検証されて論文として完成させるという仁木先生の素晴らしい才能に感服した覚えがあります.
あとがき
本稿執筆時,9月末になり,ようやく極暑が一段落して朝夕涼しくなり秋の気配が感じられるようになりました.つい数日前,道ばたにきれいな彼岸花が咲いているのを見つけ,この暑いのになぜ今頃咲いているのだろうと不思議に思いました.ただ,よく考えてみればお彼岸も間近なので咲いていて当然なのですが,それを不思議に思う季節感の麻痺した自分に気づき愕然といたしました.
今年の夏は気温が40℃を超える日や地点が続出し,日照りやゲリラ雷雨が多発するなど,日本はすでに亜熱帯になっているとも言われています.地球温暖化と社会の進歩に必要なAI・データセンターの増設などに伴うエネルギーの大量消費はトレードオフの関係にあり,どちらに軸足を置くのか,あるいは再生可能エネルギーなどにより両立ができないのか,人類は悩ましい選択を迫られています.