特集 下垂足を極める—病態理解から治療戦略まで
印刷版ISSN:0557-0433
印刷版発行年月:2026年1月
筋力の低下により足関節の背屈が困難となる下垂足は,形態上の問題だけではなく,歩きづらい,転びやすい,捻挫をしやすいなど,足関節周囲の機能障害にも通じ,整形外科の外来を受診される代表的臨床症状の1つである.下垂足例に遭遇すると,まず原因として腓骨頭での圧迫に伴う腓骨神経麻痺を疑うのが通例であろう.しかし原因はそれだけではなく,より上位での末梢神経障害,脊髄障害,筋断裂,脳神経内科疾患等で生じている可能性もあり,有効な治療を行うためには,下垂足という症状の背景にあるさまざまな疾患を鑑別する力が必要となる.本特集では,読者の方々に下垂足の診断・治療についてより広く深く理解していただくための一助となるよう,各分野で活躍されている先生方に解説をお願いした.
まず下垂足の診断と治療の基本的プロセスについて竹島憲一郎先生に述べていただき,次に原因となる各疾患については,脊椎疾患に関して磯貝宜広先生に,膝関節手術後に生じた総腓骨神経麻痺に関して中川裕介先生に,前脛骨筋腱断裂に関して及川龍之介先生に,ご自身の診療経験を交えて述べていただいた.また神経損傷の高位,損傷の程度と回復度合いを知るうえで有用な筋電図検査について高橋秀寿先生に述べていただき,後半では治療法について,リハビリテーション科の立場から髙橋宣成先生に,末梢神経外科の立場から木村洋朗先生に,足の外科の立場から安井洋一先生に,下垂足で失われた機能の再建まで含めて執筆いただいた.
下垂足は,足関節の背屈力低下により,歩行効率の低下と転倒リスクの増大を来す病態である.原因は総腓骨神経障害が最多だが,L4-L5神経根障害,中枢性疾患,筋・神経筋疾患も重要な鑑別対象となる.診療の初期段階では,問診と診察から末梢性・神経根性・中枢性のいずれに該当するかを大まかに判断する.次に,徒手筋力テスト(MMT)を基本とし,神経伝導検査(NCS)や筋電図(EMG)で神経損傷の程度と再生可能性を評価する.画像検査は,腰椎や膝関節周囲のMRI,腓骨頭部の超音波検査(US)が有用である.治療は,まず短下肢装具(AFO)を用いたリハビリテーションを基本とする.発症後約3カ月で電気生理学的に再評価し,6〜9カ月で十分な改善が得られなければ外科的介入を検討する.神経再生が期待できない慢性例に対しては,後脛骨筋腱移行術(TPT)が歩行機能再建の有力な選択肢となる.
下垂足の原因として脊椎疾患は非常に重要である.腰椎のL5神経根障害と頚胸椎の脊髄障害のいずれでも生じる可能性があり,また変性疾患,悪性疾患,外傷,医原性などさまざまな病態が存在する.手術介入は強力なツールであるが,神経予後予測や手術介入のタイミングについては個々の病態に応じて異なる点も多い.またリハビリテーション,装具療法をはじめ多彩な治療介入の手段も活用することが重要である.
人工膝関節全置換術(TKA)および膝周囲骨切り術(AKO)は変形性膝関節症に対する有効な外科的治療であるが,術後の総腓骨神経麻痺は重大な合併症の1つである.TKAでは高度外反変形や屈曲拘縮例で神経伸張により麻痺を生じやすく,当科では腓骨神経プレリリースを併用し良好な予防効果を得た.下肢麻痺を認めた際は必ず膝窩動脈閉塞を鑑別し,循環の評価も行う.疑われたら迅速に専門家へコンサルトする.AKO後では閉鎖式高位脛骨骨切り術後のコンパートメント症候群を念頭に早期診断し,診断したら早期の筋膜切開が予後を左右する.
前脛骨筋腱断裂は,長母趾伸筋(EHL),長趾伸筋(EDL)の代償により見逃されやすい.神経原性の下垂足と鑑別のうえ,身体所見と,超音波,MRIで診断を行う.手術療法が保存療法よりも機能予後に優れ,直接修復,EHL/EDL移行,自家腱移植などによる早期の手術が望ましい.
腓骨神経麻痺は,局所性単神経障害の1つである.腓骨神経麻痺と鑑別を要する疾患には,坐骨神経単神経障害,腰仙部神経叢障害,運動ニューロン疾患,多発神経障害,L5神経根障害などがある.最も多く損傷がみられる部位は腓骨頭だが,ふくらはぎ,足首,足部レベルでも局所神経障害が報告されている.本稿では,神経生理学的評価,神経伝導検査,針筋電図による診断について述べる.神経生理学的情報から,病態生理とその機能的予後が明らかになり,鑑別診断だけでなく,治療戦略の立案にも有用である.
下垂足は,前脛骨筋を主体とする足関節背屈筋群の筋力低下を主因とするが,底屈筋群や内反・外反筋群の筋緊張異常も歩行障害に関与する.本稿では,評価,運動療法,装具療法,電気刺激療法などの基本戦略を整理し,筋緊張の正常・亢進・低下型に分類して具体的介入を概説した.下垂足のリハビリテーションは,単なる背屈補助にとどまらず,多職種連携による包括的支援が求められる.
腓骨神経麻痺により下垂足を生じるが,その原因は腓骨頭周囲の圧迫や腫瘍,外傷など多岐にわたる.絞扼性神経障害の場合は保存療法が基本だが,改善しない場合は神経剥離術が有効である.神経剥離術では腓骨頭周囲の2カ所の解剖学的トンネルの除圧を行う.腫瘍や外傷により生じた場合には手術を要することが多い.病態の把握とともに手術のタイミングが重要であり,神経修復を行う際には,神経断端の瘢痕切除と非緊張下の縫合が必要不可欠である.また,神経断端に大きなgapを有する場合には神経移植を行う.
腱移行術は,足関節装具(AFO)を不要とし得る機能的再建法であり,保存療法や神経修復で改善しない症例に有効である.後脛骨筋腱(posterior tibial tendon:PTT)移行術は,骨間膜経路により背屈力を足軸上に直線的に伝達でき,最も生理的で安定した再建が得られる.Bridle法は冠状面のバランスを補正し,拘縮例ではLambrinudi固定を併用することで立位安定性を高める.術中は足関節を中立〜5°背屈位に保持し,外側寄りの固定で内反を防止する.術後は段階的荷重と神経筋再教育を重視し,AFO離脱率は80〜90%に達する.
はじめに
スポーツに伴う運動器障害は,競技パフォーマンスの低下や長期的なキャリア制限につながることが知られており,特に前十字靱帯(anterior cruciate ligament:ACL)損傷や投球障害といった種目特異的な外傷では,個々の動作の特徴と損傷リスクの関係性が注目されている1-4).動作解析はもともとバイオメカニクスやロボット工学などの研究分野で発展してきたが,近年では臨床応用が進み,スポーツ医学分野においても急速に実装が広がっている.整形外科医にとって,従来の触診や画像診断だけでは把握しきれない「動的機能評価」を提供するこの技術は,患者の予後を左右する重要な診断ツールとなりつつある.
本稿では,スポーツ整形外科医が知っておくべき動作解析の基本的な手法,スポーツ障害への応用,リハビリテーションや競技力向上への活用,そして将来的な展望について概説する.
背景:高齢の腰部脊柱管狭窄症(LSCS)では多椎間罹患例や変性側弯に伴う椎間孔狭窄を合併している症例が多い.一般的には複数椎間の除圧固定術が提示され,その侵襲の大きさの故に手術を諦めざるを得ないことも多い.この場合,健康寿命延伸にはつながらない.腰椎タンデム内視鏡下除圧術を選択すれば健康寿命延伸に寄与できる可能性がある.対象と方法:MED法による腰椎タンデム内視鏡手術を行った80歳以上の56例を対象とした.手術時間,術中出血量,JOAスコア,合併症を調査した.結果:手術時間は4/3/2椎間で150.6/138.2/106.8分であり,平均出血量は4/3/2椎間で60.7/65.7/43.5mLであった.JOAスコアは術前平均14.8点から最終観察時24.0点に改善し,平均改善率は63.9%であった.まとめ:高齢者LSCSに対するMED法を用いた腰椎タンデム内視鏡下手術は,低侵襲かつ安全で効果的な手術法である.
背景:大規模地震では倒壊家屋による長時間の圧迫で末梢神経麻痺を生じることがある.対象と方法:令和6年能登半島地震により受傷した末梢神経麻痺例8例9肢について,電気生理学的検査と臨床経過を後方視的に検討した.結果:患肢は上肢6肢,下肢3肢で,全例が倒壊家屋による圧迫を受けた.当院で6カ月フォローした4例5肢は全例が高度麻痺であった.初回の電気生理学的検査でCMAP波形が保たれた例では良好な回復傾向を認めた一方,波形消失例では回復が限定的であった.結論:大規模災害下においても電気生理学的検査が重要である.
背景:頚椎椎弓根スクリューをCT-cutout法,椎弓根軸写像法を併用した(A)とArtis Zeegoとナビゲーションを備えたハイブリッド手術室で行われた(B)の両群を検討した.対象と方法:A群:28例162本,B群:35例185本の術前刺入予測角,実施刺入角,横突孔後壁と脊柱管前壁間距離(TAd),逸脱(根尾grade:G)を調査した.結果:B群はA群よりも実施刺入角度が小さく,PTdが短いときは刺入予測角度が小さかった.逸脱はA群14本,8.9% G1が9本,G2は5本,B群8本,4.2%で全例G1であった.結語:ハイブリッド手術室では刺入精度が向上したが,位置情報の確認作業を繰り返すことが必要である.
腰椎手術後に発症する稀な合併症である脊髄硬膜下くも膜外水腫(SSEH)の2症例を報告する.症例1は術中硬膜損傷があり,術後神経症状を呈しMRIでSSEHと診断したが,保存療法で改善した.症例2は術中硬膜損傷はなかったが,術後神経症状を呈しMRIでSSEHを認めた.硬膜内穿刺を行い,その後除圧術を施行するも症状は一部残存した.SSEHは硬膜損傷の有無にかかわらず,くも膜の微小な損傷によるくも膜外への髄液貯留が原因と考えた.迅速なMRIにより診断を確定させ,症状の程度に応じて硬膜内穿刺や外科的治療を考慮する必要がある.
私と「整形外傷」の真の出会いは,今から25年前(2000年)に宮崎のフェニックス・シーガイアで開催された「救急整形外傷シンポジウム(EOTS)」でした.フェニックスでゴルフがしたくて,主題の開放骨折に合わせて,赴任したばかりの現病院のそれまでの治療成績をまとめて報告しました.当時,開放骨折といえば,救急外来で局所麻酔下に洗浄・デブリして,あとは直達牽引で逃げて,2週後くらいまでを目安に骨接合にいくといった,かなりアバウトな治療が当たり前でした.そんな私でしたが,本会におけるGustilo先生の特別講演で開放骨折に対する即時内固定の実践理論というものを恥ずかしながら初めて知り,そしてそこに集う日本を代表する整形外傷医同士の濃密な議論に衝撃を受けました.これ以降,真剣に学問として「整形外傷」に取り組むようになりました.
その後,縁あってこのEOTSを11年後(2011年)に代表世話人として開催したころから,関連学会や各種セミナーに積極的に参加する若手ドクターを目にするようになりました.とりわけ「重度四肢外傷」の初期治療に着目して,自主的にセミナーを開催するようになったのが,本書を編集したJ-SWATのメンバーたちでした.彼らも私と同じく「整形外傷」に魅せられ,同じ思いを抱く仲間と一致団結して,それ以降各方面で活躍されてきました.
本書は,解剖学者と理学療法士が真正面から向き合い,臨床の現場で本当に必要とされる知を磨き上げていく,極めてユニークで刺激的な一冊である.PT界を代表する解剖学エキスパートである荒川高光先生が,膨大な領域から“臨床で使える本質”を抽出して講義し,それに対して工藤慎太郎先生をはじめとした運動器理学療法のスペシャリストたちが,臨床の現場から生まれた鋭い疑問を容赦なく投げかける.
議論の中心には,筋・骨格・神経という構造の理解を,患者の症状や動きと結びつけて再解釈しようとする姿勢がある.トリガーポイントや疼痛発生機序といった,整形外科でも日常的に直面するテーマが深く掘り下げられ,臨床家が抱きがちな「この症状はどこから来ているのか?」という疑問が,対話のなかで徐々に解きほぐされていく.読者はそのプロセスを追体験することで,まるで自らがディスカッションに参加しているかのような臨場感を覚えるだろう.