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臨床整形外科 60巻12号 (2025年12月発行)
書評
《ジェネラリストBOOKS》診療ハック—知って得する臨床スキル 125 閲覧可
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山中 克郎 1
1諏訪中央病院
pp.1371 , 発行年月 2025年12月

A5判・352頁
2025年3月
定価:4,620円
(本体4,200円+税10%)
ISBN978-4-260-06018-9
医学書院刊


 本書を読み地元の公共温泉につかりながら,こんなことを考えた.初診外来で最初に「具合が悪いのはいつからですか」と聞き,いつまで元気だったかを確認して急性発症なのか慢性疾患なのかを判断することは重要である.「映像化」ができるくらい詳細に病歴を聴取することが大切だということも以前,指導医から聞き実践しようと心掛けている.これら「知っていると便利な臨床の智慧」を教えてもらうと診療がアップグレードする.
 しかしながら,医療はサイエンス(知識や技術)だけでなく,アート(他人への優しさ)が大切である.印象的なのは,本書の「診察前のスキル」で取り上げられた,「名前を呼ぶ」という行為である.患者だけでなく,同僚スタッフに対しても名前を呼ぶという行動が,医療チーム全体の信頼関係を構築し,結果として診療の質を高めるという主張は,アートとしての医療の視点をわれわれに投げかける.
 さらに本書は,身体診察においても「気づき」を与えてくれる.例えば殿部痛を訴える高齢者に対しては胸腰椎移行部の圧迫骨折を疑うべきであること,若年者の多発転移がんではAFPとhCGを測定し予後良好ながんを見逃さないことなど,重要ポイントが随所にちりばめられている.また「寒い日はセーターの下に聴診器を入れて人肌で温めておく」といった気配りの記述は,単なる手技の指南を超えて,患者への優しさを重んじる医師の姿勢を映し出す.
 「治療・処方スキル」の章では,即効性を実感できる漢方薬の活用や,鉄欠乏性貧血に対する適切な投与量の提案など,エビデンスに基づいた適切な医療のヒントが提示されている.とりわけ,鉄剤25mg/日(1日半錠)の鉄剤で十分であるという記述は,嘔気の副作用を軽減する点からも極めて実践的だ.
 本書の最大の魅力は,「医師としてどう患者に寄り添うか」という視点に貫かれている点にある.継続外来で患者のペットの名前を尋ねたり,アルバムを一緒に眺めたりすることで,患者の人生に触れ,その価値観を医療に反映させようとする記述には,医療の原点ともいうべき「共感と思いやり」が凝縮されている.最近,神経変性疾患を患う90代女性を訪問診療した.長女が「君と僕との記録」という古びたアルバムを棚から出してくれた.それは結婚前に夫が彼女のために作った二人の思い出のアルバムであり,夫の深い愛情と人生の時間が刻まれていた.
 『診療ハック』は,医療現場で働く全ての医師にとって,日々の臨床をより人間味豊かに,そして創造的にするヒントに満ちた1冊である.若手医師が読めば「現場で使える技術」が得られ,ベテラン医師にとっては「初心を思い出す書」となるだろう.
 本書は,まさに「明日の診療を楽しくする」ためのハック集である.ベテラン指導医からの臨床の智慧は実践的でありながらも温かく,サイエンスとアートが見事に調和した良書である.

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