
B5判・280頁
2025年9月
定価:4,950円
(本体4,500円+税10%)
ISBN978-4-260-06154-4
医学書院刊
臨床研究を始めたい──しかし大学院に進む時間もなく,研究資金や人員も限られ,働き方改革の中で残業もままならない.そんな現場医師の切実な声に応えるのが,川村孝氏の『臨床研究の教科書第3版』である.
著者はNEJM,Lancet,JAMAなどトップジャーナルへの掲載実績を誇り,研究デザインからデータ解析,論文執筆までを体系的に解説する.本書は初版以来,「自分たちで答えを生み出す」現場主導型研究のバイブルとして読み継がれてきた.
今回の第3版では2024年改訂の倫理指針に対応し,調査票作成の章を新設.さらに実際の“失敗談”をコラム形式で多数収録し,思わぬ落とし穴(生存曲線の起点設定や平均値の罠,P値比較の誤用など)を豊富な図表と共に解説する.プライマリ・ケアや日常診療でもエビデンスを創り出せる実例や,費用効果分析,臨床予測モデルまでを網羅した多彩な章立ては,忙しい臨床医にとって大きな支えとなる.
治験は製薬企業が主体であり,臨床医の業務負担は比較的軽い.一方,新薬や高価なデバイスが保険収載されると,海外研究デザインを模した観察研究が各施設で行われ,学会はその成績で盛り上がるが,ブームが去れば継続が難しい.多くの診療ガイドラインでは重要臨床疑問(CQ)を設定して文献検索しても,質の高い研究が見当たらず,前向き研究疑問(FRQ)として公開されることも少なくない.これは論文化を見込める研究課題である一方,先達が論文化できなかった難しさも示しており,自分たちだけで計画・実施するのは容易ではない.
実際,非薬物治療や高価なデバイスを使わない臨床研究は華々しさに欠け,盛り上がりにくい.しかし,コストがかかる割に効果が限定的な薬剤や高額デバイスに対し,コスパ・タイパに優れた介入の有効性を示すことこそ,これからの高価値医療推進に不可欠だ.地域の病院でこそ可能な疫学研究や非薬物治療の臨床研究を活性化し,若手や指導医が大学勤務時は基礎研究,地域勤務時は臨床研究やデータベース研究に取り組む循環を作ることは,地域医療の人材定着や優秀な人材の循環にもつながるだろう.
本書は,そうした「自前でやる臨床研究」を現実的に始めるための羅針盤である.研究の本質を押さえ,働きながらでも負担なく進められる「次世代の臨床研究」の設計図がここにある.仲間と相談しながら小さく始め,自らの現場からエビデンスを創出する.その一歩を踏み出す全ての医療者に,本書を強く薦めたい.