ピックアップ

臨床整形外科 61巻3号 (2026年3月発行)
書評
がん診療レジデントマニュアル 第10版
閲覧可
ビューアーで読む
南 博信 1
1神戸大学大学院・腫瘍・血液内科学
pp.298 , 発行年月 2026年3月

B6変型・688頁
2025年10月
定価:5,280円
(本体4,800円+税10%)
ISBN978-4-260-06177-3
医学書院刊

 『がん診療レジデントマニュアル第10版』が出版された.初版が世に出たのが1997年なので28年の長きにわたり利用されていることになる.本書のようなマニュアル,ハンドブックは数版を重ねることはあっても10版まで続くのはまれである.それだけ本書が良い本であることが理解できる.本書は各がんの疫学・診断から治療までを網羅しコンパクトサイズにまとめているため,白衣のポケットに入れベッドサイドで知識を確認するために便利に活用できる.国立がん研究センターの内科医が編集しているので,各がんの外科治療や放射線治療にも簡単に触れられているが,治療は薬物療法を中心にまとめられている.がん薬物療法に携わる内科医が良く利用しているのも理解できる.
 本書は標準治療を要領よくまとめているので知識を手軽に確認できる.そのため,日本臨床腫瘍学会のがん薬物療法専門医試験の会場で,本書で直前に知識の確認をしている受験生を多く見かける.本書で試験勉強をしている人もいると聞く.しかし,本書は日常がん診療で素早く知識を確認するために使用するには良いが,がん薬物療法の基本的考え方,原理・原則を学ぶためには書かれていない.あくまでも知識の整理・確認のためのマニュアルであり教科書ではない.試験前に知識を確認するのは良いが,がん薬物療法・腫瘍内科学の本質はきちんとした教科書で本質を学んで欲しい.
 患者さんは一人として同じではない.マニュアルだけで治療はできない.標準治療を確立した臨床試験での患者背景,主要評価項目,統計学的仮説,効果の大きさと副作用の程度のバランスを含む有用性を把握した上で,目の前の患者さんをきちんと評価し,その治療が適用できるかどうか判断し,患者さんと相談しながら複数の選択肢から治療法を決定することになる.本書の薬物療法の記載には全て根拠論文が示されている.実際の治療では必ず根拠論文を当たって,目の前の患者さんに有用かどうかを判断して治療に当たる必要がある.今は病棟や外来でも簡単にインターネットにアクセスできる時代である.治療の根拠論文がわかる本書は非常に便利である.さらには電子化版で,one clickで原著論文にたどり着けるようになるとさらに良いと思う.
 今まではがん薬物療法は臓器別診療科においてがん種ごとに行われてきたが,これからはがん種横断的に薬物療法を実施する時代である.遺伝子異常に基づいてがん種横断的に承認される薬剤も増えてきている.がん種別の構成をとっているマニュアルでは扱いにくいかもしれないが,次版での対応を期待したい.
 本書はほぼ3年ごとに改訂され常に新しい治療を取り入れている.しかし,がん薬物療法の進歩は目覚ましく,毎年治療体系が変わっている.実際,本書が出版された後の2カ月間でも新たに4剤の適応拡大が行われ治療体系が変わっている.本書に頼るだけでなく,がん治療に携わる者は常に新しい情報を把握する努力が必要である.それでも,本書はがん診療の現場で必ず役に立つはずである.私も常に白衣のポケットに入れている.本書が有効に活用され,がん薬物治療の向上に貢献することを願って止まない.

+
-
メニュー