企画にあたって
おかげさまで,本誌『臨床眼科』は2026年に創刊80周年を迎えます。これを記念し,1月号・2月号の特集では,眼科領域の進歩を振り返るとともに将来像を見据えながら,明日からの診療に活かしていただけるようなテーマで特別企画を組みました。
1月号では「眼科診療の発展と展望—これからの眼科医に伝えたいこと」と銘打ち,エキスパートの先生方に各専門領域のこれまでの発展のあゆみや今後の展望,若手医師に向けたメッセージなどについてご執筆いただきました。また特別寄稿として,本誌編集顧問であるお二人の先生から,これから第一線で眼科を担っていく医師への思いを込めたお言葉をお寄せいただきました。
AI時代の眼科医に伝えたい—必要になるスキルと心構え
●人工知能(AI)は診断精度と業務効率を高め,医療格差を縮小する。
●最終判断は医師が担い,人間にしかできない判断と共感力を発揮する。
●技術進化に適応し,倫理的責任と国際的視野をもってAIを活用する。
ブルーオーシャンな眼形成領域へようこそ!
●専門家は少ないが発展は間違いなく,まだまだブルーオーシャンだ。
●外科系を志していた人はその想いを眼科診療に反映させないと後悔するかもしれない。
●結果が外見に反映されるだけに責任も重いが,患者の喜びは術者の魂を震わせるほどのものである。
角膜診療の歩みと未来
●角膜診療は面白い。
●この50年の進歩が目覚ましい。
●日本の角膜診療は世界トップレベルである。
発展が続いている涙道・涙液診療
●涙液診療:ドライアイ診断の涙液量・質を評価する検査と,涙道疾患の導涙機能検査として発展してきた。
●涙囊鼻腔吻合術:鼻外法,鼻内法ともに,顕微鏡や鼻鏡による術野の良好な可視化により発展してきた。
●涙道内腔再建術:涙道内視鏡の開発による涙道内腔の可視化により大きく発展した。
次世代の眼科医へ,網膜専門の立場から
●自らの意思で学問的な活動をしよう。
●目の前の患者をとことん診てゆこう。
●自分の心,体の健康,そして社会貢献が大切。
神経眼科領域における診断・治療体系の変遷と新展開
●神経眼科が扱う主な疾患は,視神経疾患による視力障害,脳神経麻痺や神経筋接合部・外眼筋疾患による複視,自律神経障害による調節障害や羞明である。近年,神経免疫学や血液学の進歩に加え,MRIやOCTを中心とした画像診断技術の発展により,より精緻で正確な診断が可能となった。
●従来,神経眼科は「診断の学」とされ,治療は多くの疾患で大量ステロイド投与が唯一の選択肢であり,エビデンスに基づくというよりも主治医の経験に依存する部分が大きかった。しかし近年,分子標的薬の登場により治療成績は劇的に向上し,エビデンスに基づく治療戦略が確立しつつある。
●また,神経眼科疾患の多くは脳神経内科など他科領域の疾患とみなされがちであるが,中心暗点や複視,視神経萎縮の進行といった症候は眼科医が的確に捉えうるものであり,診断から経過観察に至るまで眼科医が担うべき役割はきわめて大きい。
屈折矯正の展望
●屈折矯正は,社会参加や健康寿命延伸に寄与する重要な公衆衛生的介入である。多世代対応の屈折矯正戦略が今後の課題である。
●眼鏡・コンタクトレンズ・屈折矯正手術は進歩を続け,個別化矯正技術や高性能化が進展している。
●未矯正屈折異常や近視は世界的な課題で,視覚障害や経済負担を増大させる。適切な矯正と予防介入は費用対効果が高い。
白内障診療の歩みと未来
●白内障手術は白内障囊外摘出術(ECCE)から水晶体乳化吸引術(PEA),femtosecond-laser-assisted cataract surgery(FLACS)へと進化した。
●眼内レンズ(IOL)は単焦点から多焦点・焦点深度拡張(EDOF)・ライトアジャスタブルレンズ(LAL)へ進歩した。
●薬物治療は進行抑制から再透明化・再生医療へ展開していく可能性がある。
緑内障診療のこれから—ランク外を目指せ!
●緑内障が中途失明原因疾患のランク外になるように!
●より安全な濾過手術の導入を!
●再生医療を導入するためにも,早期発見と早期の進行抑制を!
弱視・斜視診療で眼科医の存在意義を発揮しよう
●弱視診療は,スクリーニングの進歩と新たな弱視治療方法の開発が期待される。
●斜視診療は,高齢化によって引き起こされる複視への対策が望まれる。
●生成AIの急速な進化と普及がみられるが,誤った情報もあるため注意していかなくてはならない。
臨床でのロービジョンケアの実践を願って
●ロービジョンケアでは,眼科医療の枠を超え,必要とされる専門多職種との連携が重要である。
●ロービジョンケアにおいても,ウェルビーイングの達成が求められる時代になってきた。
●ロービジョンケアマインドをもち,患者に寄り添ったケアが望まれている。
小児眼科も診られる眼科医に
●日本小児眼科学会の対象疾患はすべての小児の眼科器質・機能疾患である。斜視は日本弱視斜視学会が,弱視は両学会でともに担当している。
●小児の眼科疾患は特殊なものもあるが,解剖・生理は成人と変わらず,診断・治療も成人の機器を用いることが多い。成人だけでなく小児も診ることができる眼科医になっていただきたい。
ぶどう膜炎は診断がつかなくても治療できる!
●ぶどう膜炎は診断がつかなくても治療は可能で,最後まで患者に寄り添う姿勢が大切。
●ぶどう膜炎は全身病であることを認識し,他科医師と普段から協力体制を構築することが大切。
●基本的な診察手順を日常的に身につけることが大切。
眼腫瘍の情報の均てん化をめざして
●腫瘍の遺伝子変化に基づく個別化医療が眼腫瘍にも導入されつつある。
●ガイドラインの整備による情報の均てん化が重要である。
●他科と連携して,広い視野をもちながら診療することが求められる。
『臨床眼科』誌の歴史的使命とその将来—日本の医学出版社を育てる必要性
●日本の眼科界が戦後に復興し,発展する過程において,医学書院ならびに『臨床眼科』誌は大きな役割を果たしてきた。
●先進諸国のように,日本にも日本語で発行する医学出版社が必要である。
●インターネットやSNS,さらには人工知能の時代を迎え,信頼できる医学情報の提供は一層重要となっている。そのなかで,医学書院が担う使命と役割は,今後ますます大きなものとなるであろう。
具眼考究—いま伝えたいメッセージ
●「具眼考究」の意味について述べる。
●「具眼」という言葉は明治の偉人,文豪が頻用していた。
●「具眼考究」を科学的に論じる。
●日本の医療・医学の現状と展望について述べる。
●私の「具眼考究」について述べる。
小児における近視管理の最新動向
本稿では日本における近視の最新疫学や心理的影響を概観し,眼鏡,コンタクトレンズ,低濃度アトロピン,オルソケラトロジー,赤色光療法など,多様な治療の科学的根拠と臨床上の要点を整理する。
眼内レンズ亜脱臼を伴う落屑緑内障に対して硝子体手術と緑内障手術を同時施行した1例
症例
患者:80歳,女性
主訴:視野狭窄
既往歴:高血圧症,狭心症にて抗凝固薬内服
現病歴:約10年前に近医で両眼の白内障手術を施行された。数か月前から右眼の視野狭窄を自覚し,前医を受診した。右眼の眼内レンズ亜脱臼と落屑緑内障を認め,手術目的に当科紹介となった。
原発性後天性メラノーシス
今回のポイント
●原発性後天性メラノーシスは成人の片眼に発生するメラノサイト増殖症であり,メラノサイトの細胞異型を伴う。
ドライアイは眼のメタボ?—カラダの中からキレイにするにはオメガ3
◉私たちが毎日食べるごはんが体の健康を作るように,まぶたのなかにあるマイボーム腺も,食事や生活習慣の影響をしっかり受けています。眼にも脳にも体にもよい食材として注目されているのが,青魚に多く含まれるオメガ3脂肪酸。「血液サラサラ」に効果があるだけでなく,実は“まぶたの炎症を抑え,涙の質まで良くしてくれる”という,嬉しい働きがあることがわかってきました。本稿では,今日から取り入れられるワクワクするヒントがたくさん詰まっていますので,ぜひ最後まで読み進めてみてください。
緑内障に対するマイクロパルス毛様体光凝固術の治療成績
要約 目的:緑内障に対する経強膜的マイクロパルス毛様体光凝固術(MP-CPC)の治療成績を検討すること。
対象と方法:2019年1月〜2022年12月に名古屋市立大学病院で初回MP-CPCを施行し,6か月以上経過観察した37眼を対象に,病型,眼圧,薬剤スコア,追加手術の有無について後ろ向きに検討した。
結果:平均年齢75.1歳,術前眼圧は21.7mmHgで,病型は原発開放隅角緑内障17眼,正常眼圧緑内障2眼,落屑緑内障5眼,血管新生緑内障3眼,続発緑内障10眼であった。術前薬剤スコアは5.3で,炭酸脱水酵素阻害薬は19眼で内服していた。術後6か月以内に2回目のMP-CPCを含む追加治療を施行しなかった25眼(68%)の術後眼圧は,1か月後14.7mmHg,3か月後14.8mmHg,6か月後15.6mmHgで,どの時点においても有意に下降していた(p<0.01)。眼圧下降率は術後1か月で25.2%,3か月で26.8%,6か月で19.7%であった。薬剤スコアは術後3か月,6か月後とも4.8で有意に減少していた(p<0.05)。また,炭酸脱水酵素阻害薬は術前15眼が内服していたが,術後3か月では3眼,6か月では2眼と有意に減少していた(p<0.001)。術後6か月以内に追加治療を要した12眼(32%)のうち,5眼は術後1か月以内に追加治療を施行していた。経過観察中に持続的な低眼圧や眼球癆などの重篤な合併症は認めなかった。
結論:MP-CPCは眼圧下降効果を示し,薬剤スコアも減らしうる低侵襲な治療法と考える。
眼窩腫瘍精査を契機として急性骨髄性白血病の再発が判明した1例
要約 目的:急性骨髄性白血病(AML)は通常,全身症状や血液検査異常を契機に診断され,眼窩腫瘍から診断に至ることは稀である。今回筆者らは,眼窩腫瘍の精査を契機にAML再発が判明した症例を経験したので報告する。
症例:症例は44歳,男性。4年前から原発性骨髄線維症で経過観察され,18か月前に末梢血芽球割合が上昇しAMLと診断され,同種造血幹細胞移植および臍帯血移植を受けた。1か月前から右上眼瞼の浮腫と腫瘤を自覚し,九州大学病院眼科を初診した。右上眼瞼内側に可動性良好な皮下腫瘤が触知され,MRIでは右眼窩内上方から内側にかけてT1強調画像,T2強調画像ともに脳実質と同程度の信号強度で,ガドリニウムにより均一に造影される17×10×15mmの腫瘤を認めた。経皮生検を施行したところ,切除組織はHE染色では核濃染像を伴い多形性に富んだ核と,透明な空胞を伴った細胞質をもつ大小不同の細胞がシート状に配列していた。免疫染色を行うと,ミエロペルオキシダーゼ,c-kitが陽性で骨髄肉腫と診断し,AMLの髄外再発と判断した。根治的治療は困難であり,緩和目的に放射線照射とベネトクラクス+アザシチジン併用療法を施行して腫瘤は縮小したが,最終的に黄色ブドウ球菌由来の敗血症により,初診から4か月後に死亡した。
結論:本症例のように白血病の既往がある眼窩腫瘍は,白血病の再発を念頭に置いて精査する必要がある。
原発性アルドステロン症に伴う悪性高血圧により両眼虚血性視神経症を発症した1例
要約 目的:原発性アルドステロン症による慢性高血圧によって両眼の虚血性視神経症を発症し,高度な視力・視野障害を生じた1例について報告する。
症例:患者は25歳,男性。右眼の霧視を主訴に当科を受診した。矯正視力は右(1.2),左(1.2)で,右眼底に硬性白斑,両眼底に軟性白斑・乳頭発赤,右眼は光干渉断層計(OCT)にて網膜浮腫・網膜内液を認めた。また収縮期血圧253mmHgであり,高血圧眼症と診断した。内科にて降圧治療を開始したところ3か月後には網膜浮腫・下液とも消失し,矯正視力は右(1.5)となった。内科的精査の途中であったが,その後3年間,内科・眼科を受診せず高血圧が放置されていた。今回,急激な視力低下を主訴に眼科を再診した。眼底に動脈の狭細化・白線化,しみ状出血,軟性・硬性白斑,視神経乳頭の蒼白を認め,OCTで網膜の菲薄化,光干渉断層血管撮影(OCTA)にて無灌流領域が検出された。矯正視力は右(0.4),左(光覚弁)で,右眼視野は水平欠損,左眼視野は中心が消失し耳側に島状に残存するのみであった。MRIにて両眼視神経の腫脹が認められた。内科的精査で原発性アルドステロン症による高血圧と診断され加療されたが,腎不全となり透析が導入された。現在,両視神経乳頭は蒼白であり,回復の見込みはない。
結論:悪性高血圧を放置することで,両眼の虚血性視神経症を発症し,高度の視力・視野障害を呈する可能性がある。内科・眼科の継続した通院の必要性について啓蒙する必要がある。
あとがき
2026年1月号は「80周年記念特集」であり,大鹿先生の「AI時代の眼科医に伝えたい—必要になるスキルと心構え」から始まり,各分野のオピニオンリーダーの示唆に富む記事が続く。そして坂本先生には本誌の歴史と,今までそして今後も担っていく眼科領域における使命についてご執筆いただき,三宅先生には「具眼考究」で締めくくっていただいた。これだけの執筆陣を集められたことからも,『臨床眼科』誌の果たしてきた役割の大きさがわかると思うが,その内容は,まさに80周年を記念するに余りある内容である。
どれをとっても,その内容の深さや示唆に驚かれるであろうし,読まずにはいられないと思う。その内容は日眼や臨眼の特別講演の誌上版のようであり,本誌の内容は長く語り継がれていくものであると思う。ぜひとも,多くの眼科医,若手に手に取ってもらいたい。これらの先生が,日頃どのように物事を考え,診療や研究に向かっておられるのか,自然と理解でき,何よりの財産になると思う。